研究課題/領域番号 |
15K20193
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
加藤 幸宣 福井大学, 医学部附属病院, 特命助教 (00748981)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | local allergic rhinitis / 局所IgE / アレルギー性鼻炎 / ブタクサ花粉 / Th2細胞 |
研究実績の概要 |
これまで申請者はマウスに腹腔内感作を行わずにブタクサ花粉を経鼻的に連続投与を行うことで、これまでとは全く異なる新規のアレルギー性鼻炎モデルマウスを作製した。この新規アレルギー性鼻炎モデルマウスにおいて、マウスのくしゃみ回数は7日目に上昇した。この鼻炎症状が比較的早期に出現するという点に着目し、解析を行うと、点鼻開始後7日目までにくしゃみ回数の増加、鼻や頸部リンパ節へのTh2細胞の集積、鼻粘膜への好酸球浸潤を認めることが明らかとなった。この時点において、血清IgEの上昇は認めず、局所IgEの産生を認めた。ヒトにおいて鼻炎症状を認めるが、血清特異的IgEの上昇を認めず、鼻汁中でのみIgEの上昇を認める状態はlocal allergic rhinitis (LAR)として分類されている。新規アレルギー性鼻炎モデルマウスにおいて、点鼻開始後7日目の状態はヒトLARと似た兆候を示していると考えられた。また、この反応における最初の徴候として点鼻開始後3日目には活性化Th2細胞の出現を認めた。3週間連続的に経鼻感作を行うと、血清特異的IgE陽性のアレルギー性鼻炎を発症した。従って、元々アトピー体質を持たない個人においても、抗原の曝露により、LARや全身性アレルギー性鼻炎を発症し得ると考えられた。更にIgEを介したシグナリングが抑制されているFcεR1KOマウスでは、野生型マウスに比べて明らかなくしゃみ回数の低下を認めた。申請者が作成した新規アレルギー性鼻炎モデルマウスにおいて、鼻炎症状にはIgEが必須の役割を担っていることが明らかとなった。一方でIgEシグナリング非存在下においても、Th2細胞の活性化、好酸球浸潤は十分認められた。B細胞やIgEよりもむしろ、活性化Th2細胞が好酸球浸潤において重要な役割を果たしていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は自らが作製した新規アレルギー性鼻炎モデルマウスに関して、マウスのくしゃみ回数の増加が早期であり、5日目以降に上昇する過程に着目していた。この時点において血清IgEが上昇しているかに関しては全く解明されていなかったが、今回の研究において、点鼻開始後7日目においても血清IgEは上昇していないことが明らかとなった。しかし、血清IgEが陰性であっても局所IgEが上昇している可能性も考えられた。マウスにおける鼻局所でのIgE産生の解析に関してはこれまでほとんど報告がない。申請者は次の方法で局所IgEの同定を行うことに成功した。鼻組織や頸部リンパ節からB細胞をMACSやFACSを用いて精製し、PCR、リアルタイムPCRを用いて、εやγ1のgerm line transcriptやpost switch transcriptの発現、またActivation-induced cytidine deaminase(AID)やB-cell lymphoma 6 (Bcl6)、 B-lymphocyte-induced maturation protein 1 (Blimp1)などの発現を調べ、局所でのIgE産生、クラススイッチの有無を解析した。この解析方法により、点鼻開始後7日目の時点において、血清IgEの上昇は認めず、局所IgEの産生を認めることが明らかとなった。以上より、新規アレルギー性鼻炎モデルマウスにおける病態解明が進んでおり、本研究課題の進捗状況として、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
アレルギー性鼻炎における自然免疫系の関与を調べるために、T細胞B細胞を欠くRAG2KOマウスを用いてWTマウスとの比較を行う。近年、2型炎症性疾患に関わりが深い細胞として2型自然リンパ球(type2 innate lymphoid cells, ILC2s)が注目されている。ヒトやマウスにおいて獲得免疫がない状態でもILC2sの働きにより、アレルギー性炎症を引き起こすことが気管支喘息やアトピー性皮膚炎などで示されている。アレルギー性鼻炎におけるILC2sの関与に関しては全く不明である。まずはILC2sが鼻に存在するのかをフローサイトメトリーで検討する。RAG2KOマウスにはILC2sが存在するので、RAG2KOマウスに、抗原を暴露させることで、ILC2sの鼻への集積を認めるかを評価する。さらに、ILC2sを抗CD25抗体、抗CD90抗体を用いて不活化させ、ILC2sとアレルギー性鼻炎との関与を調べる。 2型炎症性疾患に関わりが深いとされる上皮由来のサイトカインであるIL-33、TSLPとの関与をIL-33KOマウス、TSLPKOマウスを用いて評価を行う。 アレルギー性鼻炎発症への早期介入に有効な物質、遺伝子を、新規アレルギー性鼻炎モデルマウスを用いて検討し、臨床への応用、新規治療薬開発への可能性を追求する。具体案として乳酸菌によりアレルギー性鼻炎症状が緩和される可能性が注目されている。乳酸菌投与による介入がどのように影響を与えるか検討する。また、申請者の研究室では、ヒト鼻粘膜上皮擦過細胞の網羅的遺伝子発現解析においてスギ花粉症患者が健常人に比べてCystatinSN(CST1)とIntelectin1(ITLN1)が有意に高発現であることを見出している。これらの新規モデルマウスにおける関与を遺伝子改変マウスを用いて追及する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究計画を遂行するために必要な各種機器、物品、試薬を準備した。また、成果を発表するための国内旅費が必要であった。本研究はマウスを対象とした実験が主体であり、マウスの購入や飼育のために研究費を使用した。研究を進めていくうえで、本年度使用額は適切な額であった。次年度も同様にマウスの購入、飼育費が必要である。更に遺伝子改変マウスの使用や、本研究に必要な物品、試薬、また成果を発表するための国内旅費が必要である。次年度研究に向けて残額を繰り越し、使用することが望ましいと考えられた。従って次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究はマウスを対象とした実験が主体であるため、マウスの購入、飼育費を中心に使用する。また、マウスに投与する抗原、ELISAやPCRなどに必要な試薬、組織の染色、細胞刺激培養液などを用いて実験を行う。研究成果は英語論文にて発表する。また、成果を日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会、日本耳鼻咽喉科学会、日本アレルギー学会などで発表することで社会への発信を予定しており、使用を計画している。
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