研究課題
平成27年度は就学した人工内耳装用児の英語学習における実態調査を行う目的で、当院にて人工内耳手術を施行、もしくは術後に児童発達支援センター岡山かなりや学園にて療育を受けた難聴児で、平成27年4月時点で小学校1年生から高校3年生である児、およびその保護者を対象に質問紙調査を行った。小学生以下は保護者のみに、中学生以上は本人および保護者への質問紙調査を行い、文章による同意を得た場合に、その回答を分析した。研究の対象者145名に質問紙を送付し、保護者からの返信は82名(56.6%)回収可能であった。そのうち、文書による同意が得られた80名を解析対象とした。また、中学生以上は30名が回収可能であったが、うち1名は保護者がデータ開示を希望されなかったため、29名を解析対象とした。保護者へのアンケートでは、対象児80名(男性38名、女性42名)のうち、人工内耳の両耳装用が10名、片耳装用が70名であった。多数が地元の学校に進学しており、学校で英語学習が行われていたのは64名と80%にのぼった。また、64名のうち、通常の学級で他の生徒と一緒に英語学習をしている児が38名、難聴学級で受けている児が6名、ろう学校や個別のクラスで受けている児が11名、不明・無記入が9名であった。一方、本人への質問紙調査では、29名の内訳は男性14名、女性15名であった。英語学習が好きと回答したのが7名、嫌いと回答したのが8名で、どちらともいえないが13名、無回答が1名であった。また、英語学習に困難を感じているのが11名、感じていないのが9名、どちらともいえないのが9名であった。困難な内容としては、教師が板書せず、口頭で説明するために聞き取れない、リスニングが聞き取れない、日本語のように類推ができないといった回答があり、主にリスニングに関するものが多かった。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の目標であった、人工内耳装用児の英語学習における実態調査については、小学生から高校生までの人工内耳装用児80名の保護者から有効な回答を得ることができ、回収率は56.6%と半数以上であった。また、質問紙調査の内容の分析も進んでおり、平成28年10月に日本国内にて開催される耳科・聴覚医学関連の学会にて報告を検討している。さらに今回の調査において、今後のデータ収集に協力を表明した難聴児が37名おり、今年度にはこうした児を対象に調査を進めていく予定である。著書・論文発表では、早期補聴が人工内耳装用児の学力に与える効果について論文を作成し、小児耳鼻咽喉科の英文誌に投稿し掲載された。また、当科で手術を受けた両側人工内耳装用児の調査、人工内耳装用者のプロソディーに関する研究についてもそれぞれ日本小児耳鼻咽喉科学会(長野県軽井沢市)、日本耳科学会(長崎県長崎市)にて報告を行った。両側人工内耳装用児の調査結果については、和文の論文を作成して投稿し、受理されている。今後は、こうした研究成果を本研究にも反映させて計画を進めていく予定である。
前述の調査の結果からは、現在、人工内耳装用児の多数は地域の学校にて正常聴力児とともに学習している実態が示された。また、英語学習の中でも特にリスニングに困難を抱える児が多数存在していることが明らかとなった。ただ、今回の研究の対象とした難聴児のうち、小学生の英語評価については現在成績評価の対象となっておらず、今後のデータ収集の際にはこうした点を考慮する必要がある。平成28年度からの研究では、中学生以上の児については、日本語の言語発達検査および英語の学力検査を用いて日本語および英語学習の関連について検討予定である。さらに、当科で作成したプロソディー検査を用いた評価を行う予定である。また、小学生では前述のように英語学習の評価方法がまだ定まっていないため、日本語の言語発達検査、聴力検査、語音明瞭度検査、当科で作成したプロソディー検査などを用いて、評価を行う予定である。さらに、正常聴力児からも研究対象者を募り、データ収集を行う予定である。
消耗品が安価で購入できたため。
データ収集に必要な経費に使用予定である。
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小児耳鼻咽喉科
巻: 第37巻 ページ: 64-70
International Jounal of Pediatric Otorhinolaryngology
巻: 79(12) ページ: 2142-2146
doi:10.1016/j.ijporl.2015.09.036