研究課題
昨年の研究により、バンコマイシンおよびポリミキシンBの飲水投与により腸内細菌の構成を変化させたマウスにおいて、脾臓における濾胞ヘルパーT(Tfh)細胞(CD4+、PD-1+、CXCR5+)の割合が抗生物質投与群で有意に増加することが明らかとなった。本年度は、腸内細菌叢の構成変化によるサイトカイン環境への影響、既に報告されている細菌種との関連について検討した。抗体アレイを用いた解析により、抗生物質処理を行ったマウス血清では、IL-2、IL-17の有意な上昇および、CXCL13の有意な減少が認められた。これらのうち、CXCL13はリンパ節や脾臓における濾胞樹状細胞や胚中心樹状細胞が産生するケモカインであり、本ケモカインに対するレセプターであるCXCR5を有するTfh細胞は CXCL13 の濃度勾配に従ってリンパ濾胞内へと遊走する。血中CXCL13の減少は、組織と血液間におけるCXCL13の濃度勾配が上昇している可能性を示唆しており、より多くのTfh細胞がリンパ濾胞内に移動している可能性を示唆している。また近年、segmented filamentous bacteria (SFB) が、Th17等のT細胞サブセットを誘導する事が報告されていることから、本研究で使用したマウス系統についても検出を試みた。16SrDNA配列に基づくSFB特異的プライマーを用いたPCRの結果、本研究で使用したマウス系統はSFBを保有しておらず、また、抗生物質投与により細胞数が増加することから、Tfh細胞数を抑制する作用を有する細菌種の存在が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究によって得られた結果は、Tfh細胞数調節およびサイトカイン環境に影響を与える腸内細菌種の存在を示唆するものであり、また特定のT細胞サブセットの数的調節に影響を与えることが報告されているSFBが、本研究で用いたマウス系統では検出されないことから、Tfh数的調節に対し抑制的に作用する他の菌種の存在が強く示唆される。Tfh細胞は、免疫アレルギー疾患との関わりが示唆されていることから、今後の展開可能性は高いと考えられる。本年度は、実験的自己免疫性脳脊髄炎等のマウスモデルを用いた解析を予定していたが、既存の手法で誘導する事が出来ず、次年度の課題としたい。
今後は引き続きマウスを用いた解析を計画している。前年度実施できなかった疾病モデルを用いた解析に加え、SFBを保有するマウスを用いた解析も行い、結果を比較する。また、マウスでは加齢により、Tfh細胞が増加するという報告があるため、このメカニズムと腸内細菌叢との関連についても検討する。具体的には、D-ガラクトース投与による亜急性老化モデルにおけるTfh細胞の解析と、腸内細菌叢との関連について検討する予定である。
年度内に納品予定だった試薬の納品が遅れ、4月納品となったため。
試薬は新年度4月時点で納品されており、次年度使用額は既に使用済みである。
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