近年、再生医療の分野において人工多能性幹細胞(以下iPS細胞)の研究が進んでいる。iPS 細胞から分化誘導した気管上皮組織を人工材料と供に生体の気管欠損部へ移植することで上皮形成期間を短縮できる可能性をin vivoで調査した。 iPS細胞から分化誘導した気道上皮組織が生体へ移植するのに適した組織であるかを、分化誘導の過程で継時的に評価した。胚様体を形成し成長因子含有培地で培養後に維持培養中の胚様体を12日目、19日目、26日目、33日目で組織学的に評価した。また、リアルタイムPCR法を用いて線毛上皮系マーカーの遺伝子発現を評価した。組織学的所見とreal time PCR法の結果から培養26日程度の胚様体中に線毛構造が出現し上皮組織としての成熟が得られていると判断した。 移植は免疫不全ラットに気管欠損部を作製して行った。移植モデルは3つ作製し、培養26日目の胚様体を含有した「ALI モデル」。比較対象はALI環境下で接着培養を開始する前の状態の胚様体を包埋した「without ALI モデル」、胚様体を包埋していない「control モデル」とした。1週間後に摘出して評価した。ALIモデルにおいて気管欠損部周囲の再生組織中ではあるものの、iPS細胞由来組織と考えられる上皮様構造が腫瘍化することなく生着していた。Without ALIモデルではiPS細胞は腫瘍化した。 また、蛍光蛋白であるtdTomatoを遺伝子導入したiPS細胞を用いて同様の実験を行った。摘出標本でtdTomatoの発現を確認すると移植した免疫不全ラットの再生組織中で一塊となって存在していた。気管欠損部の再生上皮中にはtdTomatoを発現する細胞は認めなかった。 これらの結果よりiPS細胞由来の気管上皮組織は本手法によって気管欠損部位への上皮配置には至らなかったが、iPS細胞から分化誘導した気管上皮組織が生体に生着できることを明らかにできた。
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