本研究は、騒音下でも利用できる軟骨伝導補聴器の開発を目的としている。軟骨伝導補聴器とは耳軟骨を振動させて音情報を伝える新しい補聴器である。この補聴器は、これまでの気導・骨導とは異なる新しい伝導ルート(軟骨伝導)を利用したものであり、既存補聴器のデメリットを解消しうる画期的な補聴器として期待できる。この補聴器の大きな特徴は、外耳道を開放したまま音聴取が可能な点である。一般的な気導補聴器はイヤホンを外耳道に挿入する必要があるが、軟骨伝導補聴器は耳軟骨に軽く接触するだけで音聴取が可能なので、リング状の振動子を採用すると、外耳道を開放したままで装用が可能である。その反面、外部騒音が外耳道内に混入しやすく、騒音環境に弱いという指摘を受けている。 初年度(平成27年度)は、騒音が入ることによってどの程度語音明瞭度が低下するのか、聴取実験を行った。その結果、騒音下においては特に高音域にエネルギーのある子音が聞きとりづらいことが明らかとなった。そこで次年度(平成28年度)は、一般的な難聴者がどういった子音を聞きとりづらいと感じているか、自己相関解析を用いて評価した。その結果、自己相関関数から得られる有効継続時間が短い語音ほど、難聴者にとっては聞きとりにくいことが判明した。 最終年度(平成29年度)は物理的に噪音影響が判断できるよう、軟骨伝導を模擬できるモデルの開発に取り組んだ。シリコンゴムで形成された耳介モデルの、外耳道長さ、硬度などを変化させながら、実際の人間の軟骨伝導音と同等となるよう調整を行った。その結果、人間と同じ、外耳道長さ10cm、硬度A15で軟骨伝導音の周波数特性が一致し、人間の実寸に合わせたモデル開発の重要性を確認できた。
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