本研究は声帯の加齢性変化に伴う機能的・器質的変化の特徴を把握し、効果的な治療介入を探るための基盤研究である。 当初はラットによる実験系を予定していたが、前年度からは動物分類学上でよりヒトに近い小型霊長類のコモンマーモセットが老化に関する音声実験の対象として有用か探るため、摘出喉頭の構造解析を行った。ヒトは加齢に伴い声帯層構造の組成が変化していくという特徴を踏まえ、幼齢期・成体期・老齢期の検体の喉頭切片を作成し、EVG染色にて弾性線維と膠原線維、筋線維を評価した。コモンマーモセットは喉頭室を有し、声帯は粘膜上皮・粘膜固有層・筋層の3層構造を呈していた。粘膜固有層浅層は線維成分が比較的疎で、中間層は弾性線維が主体を成し、深層は膠原線維が主体で組織が密であった。一方、老齢期で膠原線維の密度が増加して弾性線維が減少していた。このように浅層から深部に近づくにつれ硬くなる3次元構造で、加齢により粘弾性が低下する所見はヒトと類似していた。組織幹細胞の探索を目的に抗LGR5抗体と抗サイトケラチン抗体を用いた免疫染色では、冠状断切片にて声帯上面~喉頭室近傍の基底膜、声門下に幹細胞マーカー陽性細胞を認め、水平断切片では声門後壁側に多かった。 コモンマーモセットの喉頭は、ヒトとの構造の類似から、吹鳴実験などの動的評価や基礎実験に適し、老化を探るin vivo動物実験における霊長類モデルとして活用しうる可能性が示唆された。
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