研究実績の概要 |
【背景】加齢性難聴は、加齢に伴う進行的な聴力障害であり、65-75歳の約40%が、75歳以上の約70%が加齢性難聴と診断されている。加齢性難聴は加齢に伴う有毛細胞の減少が原因とされているが、詳しい病態は不明である。最近の報告では、蝸牛線維細胞の変性が起点となって内耳有毛細胞の劣化や減少することが示唆されている。近年、加齢性難聴を含めた難聴の治療を目指し、ES/iPS細胞から内耳細胞への分化誘導法が複数報告されているが、いずれも蝸牛有毛細胞を対象としており、蝸牛支持細胞や線維細胞への分化誘導法は報告されていない。 【目的】本課題では加齢性難聴を含めた難聴の根本的な治療法の開発を目指し、1)iPS細胞から内耳細胞への分化誘導法の開発、2)難聴モデルマウスに対する細胞治療法の開発を目的とした。 【結果】マウスiPS細胞からコネキシン26を発現する細胞への分化誘導法を開発した。コネキシン26は、コネキシン30と共に内耳の細胞間イオン輸送を行うギャップ結合を構築する構成要素であり、内耳リンパ液中のイオン組成を保つことにより音の振動を神経活動へ変換することを可能にしている重要な分子である。分化誘導した細胞では、機能性を持ったコネキシン26およびコネキシン30のギャップ結合複合体が構築されていた。更に、分化誘導した細胞において発達期蝸牛で観察されるATPやヘミチャネルに依存したCa2+シグナルの自家発火と伝播が観察された。本成果は、Stem Cell Reports(2016, 7, 1023-1036)に掲載され、世界的に報じられた。また、上記細胞の作製方法は、国内および国際特許に出願済みである。他方、内耳への細胞移植効率を向上させるため、骨髄間葉系幹細胞におけるCXCR4およびCCR2の発現量をqRT-PCRにより評価し、これらを強発現する骨髄間葉系幹細胞の作製法を開発した。
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