突発性難聴、メニエール病、先天性難聴などウイルス感染症が関与、もしくは原因の一つとして考えられている蝸牛性難聴の病態はいまだ明らかではなく、ゆえに決定的な治療法も存在しえない。 我々はこれまでの研究において、免疫特権部位と呼ばれる強い免疫抑制環境下にあると考えられている臓器である蝸牛において、音の知覚を司る有毛細胞の外側に位置する支持細胞であるヘンゼン細胞・クラウディウス細胞が、ウイルス感染時にウイルスのgenome RNAを認識する細胞内受容体であるretinoic acid-inducible gene-I (RIG-I) like receptor (RLR) familyのシグナル伝達経路を介して抗ウイルス作用を持つtype I interferon (IFN)を発現することを突き止めた。この結果を受け、蝸牛がウイルス感染した際に蝸牛内の組織特異的マクロファージがどのような挙動を示して抗ウイルス作用を発揮するのか検討を行っている。 まず蝸牛組織においてどの部位にマクロファージが局在しているのか同定するために、免疫化学染色法を用いて検討した。具体的にはマウスより蝸牛を摘出し、蝸牛全体で凍結切片を作成、また感覚上皮のみを取り出してwhole mountにてそれぞれ免疫染色を施した。凍結切片にて蝸牛全体におけるマクロファージの局在を大まかに調べ、また感覚上皮のwhole mountにて聴覚にとって特に重要なコルチ器におけるマクロファージの局在を重点的に検討した。またコルチ器よりtotal RNAを抽出し、逆転写にてcDNAを合成、マイクロアレイを用いて発現の見られるマクロファージマーカーを洗い出し各遺伝子に対し定量的RT-PCR法にて実際の発現プロファイルを作成した。この発現プロファイルをウイルス感染させた蝸牛に対しても作成し、比較検討を行った。
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