前年度の研究において、緑内障モデルマウスの網膜内ではEcel1タンパク質および遺伝子発現レベルが未処置に比較して大幅に上昇し、そのタンパク質は網膜神経節細胞に限局していることを確認した。今年度はEcel1の機能解析を目的として、マウス全長Ecel1タンパク質を網膜内で過剰発現させるためにAAV2ベクターを用いた。AAV2-Ecel1をマウス眼球内に投与し一か月に眼球を摘出し、その発現パターンを確認した。AAV2-Ecel1投与後のマウス眼球内ではEcel1のmRNAおよびタンパク質は大幅に増加し、その局在は網膜神経節細胞層に発現していることが確認された。Ecel1過剰発現による網膜内細胞毒性をqPCRにより検討したが、網膜神経節細胞特異的に発現する遺伝子の低下は認められなかった。当初の仮説であったEcel1が網膜神経節細胞に対して神経保護効果を示すという可能性を検証するため、網膜内にEcel1を過剰発現させたマウスの緑内障モデルを作成し、その後の網膜神経節細胞数を計測したが、その細胞保護効果は認められなかった。一方、Ecel1を過剰発現させたマウス網膜において、軸索挫滅後に視神経軸索再生の促進が確認された。さらにこの結果を検証するため、Crisp/Cas9によりマウス網膜内の網膜神経節細胞特異的にEcel1の発現を減少させるウイルスベクターを2種類作成した。培養細胞レベルでのゲノム編集が成功したことを確認しており、現在、そのノックダウン効率を評価中である。本研究の結果は、これまで網膜内の機能が未知であったEcel1の生理的意義を明らかにするものであり、今後の緑内障治療に向けた基礎的な知見として有用であると考えられる。
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