研究課題/領域番号 |
15K20248
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
松本 英孝 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30420178)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 網膜剥離 / 視細胞死 / Fasリガンド / 神経保護 |
研究実績の概要 |
網膜剥離は裂孔原性網膜剥離や加齢黄斑変性、糖尿病網膜症など様々な疾患でみられる。治療によって網膜が復位しても、剥離期間中に起こる視細胞死により視力が低下する。このため、剥離網膜における視細胞死の抑制が重要である。これまでの研究で、剥離網膜の視細胞死とFas-Fasリガンドの関与が報告されている。本研究では、研究代表者らが報告したマウス網膜剥離モデルを用いて、Fas リガンド遺伝子欠損・改変マウスに網膜剥離を作製し、網膜剥離におけるFasリガンドの役割について検討した。また、剥離網膜における視細胞保護のために、Fasシグナルを抑制する新たな治療の開発を試みた。 本研究では、Fasl-/-マウスとΔCSマウスを用いて実験を行った。ΔCS マウスでは、野生型マウスよりもFas シグナルが強く入ると考えられている。Fasl-/-マウスとΔCSマウスに網膜剥離を作製し、剥離網膜における視細胞死の量を評価した。Fasl-/-マウスでは野生型マウスと比較して有意に視細胞死が少なく、ΔCSマウスでは有意に多いことを確認した。また、剥離網膜内で上昇すると報告されている炎症性サイトカインを測定した。視細胞死と同様に、Fasl-/-マウスでは野生型マウスと比較して有意に炎症性サイトカインの発現が少なく、ΔCSマウスでは有意に多いことを確認した。これらの結果は、Fasシグナルが網膜剥離における視細胞死に関与していることを意味する。 次に、可溶型Fasリガンドの神経保護作用について検討した。ΔCSマウスに網膜剥離を作製する際に、リコンビナント可溶型Fasリガンドを網膜下に注入して剥離網膜における視細胞死を評価したところ、コントロール群と比較して有意に視細胞死が抑制された。可溶型Fasリガンドが膜結合型Fasリガンドのアンタゴニストとして機能し、Fasシグナルが抑制されたと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者が開発した再現性の高いマウス網膜剥離モデルを用いて研究を行ったため、効率的に実験を進めることができた。本研究で得られた結果の一部を2015年の日本眼科学会総会(札幌)で発表し、論文をCell Death and Disease (2015) 6, e1986; doi:10.1038/cddis.2015.334に報告した。これまでの研究の進捗状況に関しては満足いくものである。
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今後の研究の推進方策 |
剥離網膜における視細胞死のデスシグナルは、未だ完全には解明されていない。Fasの活性化に伴い、細胞内のカスパーゼ8、続いてカスパーゼ3が活性化され細胞死が起こることが知られている。本研究では、マウス剥離網膜を用いて活性型カスパーゼ8と3の発現量をWestern blotにより評価し、網膜剥離における視細胞死においてもカスパーゼカスケードが関与しているかを明らかにしていく。また、可溶型Fasリガンドで視細胞死を抑制した場合に、活性型カスパーゼ8と3が減少することも確認していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者が開発した再現性の高いマウス網膜剥離モデルを用いて研究を行ったため、効率的に実験を進めることができた。このため、実験動物や物品が当初予定していたよりも少なく済んだ。また、学会参加のための旅費や英文校正費を今回は計上しなかった。これらの理由で実支出額が請求した金額よりも少なくなり、次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
網膜剥離の視細胞死におけるデスシグナルの解明のために、引き続き動物実験を行う必要がある。また、本研究で得られた成果を海外学会で発表したいと考えている。助成金はこれらの費用にあてる予定である。
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