網膜剥離は裂孔原性網膜剥離や糖尿病網膜症など様々な疾患でみられる。治療によって網膜が復位しても、剥離期間中に起こる視細胞死により恒久的な視力低下が起こる。このため、剥離網膜の視細胞死の抑制が重要である。これまでの研究で、剥離網膜の視細胞死とFas-Fasリガンドの関与が報告されている。Fasリガンド(膜貫通型タンパク)は、Fasに結合することによって細胞にアポトーシスを誘導するデス因子である。Fasに結合した膜結合型Fasリガンドは、メタロプロテアーゼによって切断され可溶型となる。可溶型Fasリガンドのアポトーシス誘導能は非常に低く、膜結合型Fasリガンドのアンタゴニストとしての働きも示唆されている。本研究では、研究代表者らが報告したマウス網膜剥離モデルを用いて、網膜剥離におけるFasリガンドの役割について検討した。また、剥離網膜における視細胞保護のために、Fasシグナルを抑制する新たな治療法の開発を試みた。 Fasl-/-マウスとΔCSマウスを用いて実験を行った。ΔCSマウスは、Fasリガンドのメタロプロテアーゼ切断部位に遺伝子変異があるため、野生型マウスよりもFasシグナルが強く入ると考えられている。Fasl-/-マウスとΔCSマウスに網膜剥離を作製し、剥離網膜における視細胞死と炎症性サイトカインの発現を評価した。その結果、視細胞死と炎症性サイトカインの発現ともに、野生型マウスと比較して、Fasl-/-マウスでは有意に少なく、ΔCSマウスでは有意に多かった。また、ΔCSマウス眼に網膜剥離を作製する際に、リコンビナントマウス可溶型Fasリガンドを網膜下に注入して網膜剥離後の視細胞死を評価したところ、コントロール群と比較して有意に視細胞死が抑制された。これらのことから、Fasリガンドは剥離網膜における視細胞死に関与し、視細胞死抑制の治療標的になりえると考えられた。
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