研究課題/領域番号 |
15K20250
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平澤 裕代 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60645000)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Quality of Visual Life / Rach model / item bank |
研究実績の概要 |
緑内障患者の治療のゴールは緑内障患者のQuality of Visual Life(QoVL)の維持にある。QoVLは極めて主観的なものであり、客観的な数値的評価は容易ではない。従来、QoVL評価は古典的テスト理論に基づいた調査法が主流であったが、我々は項目反応理論の一種であるRasch法の適応が適切であることを報告した(Hirasawa et al.Invest Ophthalmol Vis Sci.2014,3;55(9):5776-82.)。そこで我々は緑内障患者の包括的なQoVL評価を可能にする調査票の確立を目指し、KLhadkaら(Optom Vis Sci.90:720-744,2013)の報告の中で緑内障患者のQOL調査法として提案された手法(QOL調査票23種)に含まれる全ての設問を網羅し、新Sumi調査票を作成した。新Sumi調査票は、多種多様な日常生活動作を対象にした質問項目に加え、QOL評価に必須とされる精神状態、社会的参加といった日常生活以外の観察項目や自動車の運転に関する質問項目を新たに含んだ187問からなる自記式調査である。本研究では開放隅角緑内障患者203例に対し本調査を行い、あわせて眼科的一般検査、視野検査、光干渉断層計による神経線維層厚の計測を行った。 203例の調査結果を解析した結果、日常生活関連QoVLスコアは日常生活以外のQoVLスコアと有意に相関(R=0.56, p<0.001)していた。QoVLスコアに関連する背景因子の線形回帰分析では、下方視野の感度と非優位眼の視力が日常生活のQoVLに強く関連していた一方で、緑内障治療の点眼回数と緑内障手術の回数が日常生活以外のQoVLに強く関連していることが示された。視野障害進行速度はQoVLに関連しなかった。 今回の検討から、緑内障治療の最終目標は患者のQoVL維持にある一方で、緑内障治療の強化は精神面でのQoVLの悪化につながる可能性が示唆されており、客観的なQoVL評価とその簡便な数値化を可能にする手法が緑内障の治療方針決定上の有意義な一手法になることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は約200人の緑内障患者を対象に新Sumi調査票による調査及び眼科的検査を行い、蓄積されたデータからitem bankを構築したうえで、Computerized Adaptative Testing(CAT)システムを利用してコンピューター適合型テストであるCAT-新Sumi調査票の開発に着手する予定であった。現在のところ、item bankの構築段階にとどまっている。新Sumi調査票は包括的であることを目指したために100問以上の設問を要し、調査に長時間を要する。そのため、時間的制約の強い臨床業務内での調査データ蓄積に予想をはるかに上回る時間を要した。また、得られたデータをもとに、本調査票の妥当性の確認と、既存のQOL調査票との結果の整合性の確認を行ったうえで本年度研究予定としていたQOLスコア推定システムに最適な方法論の検証を行う必要があり、データ解析と解釈に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、新Sumi調査票による調査人数は目標に達しており、次の段階に進むにあたってのデータの正当性・方法論の再検証を行っている段階である。本年度新規に取得したデータから、QoVLスコア推定にあたり同時に勘案すべき項目を新たに検討・評価中であり、これらデータ解析結果を確定させたのちに、次の段階としてComputerized Adaptative Testingシステムをベースにitem Bankに蓄積された多くの質問群からコンピュータープログラムが回答者に合わせて選出した必要最小限の項目数による効果的な測定システム(CAT-新Sumi調査票)の策定に着手する予定である。
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