本年度は、まず前年度選定した角膜内皮細胞発生・分化段階に必要な転写因子や低分子化合物に対して絞り込みを実施した。その結果、転写因子TFAP2B(AP-2b)が角膜内皮の分化指向性に関わることを同定した。AP-2bは、角膜内皮を含む繊維柱帯、角膜実質および虹彩実質などの神経堤由来の眼組織に高発現した。角膜内皮組織における発現を免疫染色法によって確認すると、AP-2bは角膜内皮細胞のほとんどに発現し、角膜内皮中央部よりも周辺部でより高い発現を示した。マウス発生期のAP-2bの発現について検討すると、E11.5以降の角膜内皮へと分化する眼周囲間充織細胞から、成体マウスの角膜内皮組織において発現することが明らかになった。 AP-2bの標的遺伝子を探索するためにRNA干渉法を用いた発現抑制実験によって、角膜内皮マーカーであるCOL8A2遺伝子や角膜内皮特異的細胞表面マーカーであるZP4遺伝子の発現を優位に低下させた。転写活性アッセイおよびクロマチン免疫沈降法によって、これらの遺伝子の上流にAP-2bが直接的に結合することによって、転写活性を亢進させることが明らかになった。さらに、ZP4は角膜内皮特異的細胞表面マーカーであることを利用して、培養角膜内皮細胞に対して、FACSを実施するとZP4陽性細胞群は陰性群と比較して、AP-2bおよびCOL8A2遺伝子の発現が高いことを示した。 以上のことより、転写因子AP-2bは、角膜内皮の分化に関わる遺伝子を転写制御できうることを明らかにした。
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