研究課題/領域番号 |
15K20261
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
佐々木 慎一 鳥取大学, 医学部, 助教 (30745849)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 常在細菌叢 / 角膜感染症 / 術後眼内炎 / マイクロバイオーム / メタゲノム解析 |
研究実績の概要 |
正常者における眼表面の細菌叢の動態をまず理解するため、白内障手術をうける患者の眼表面の細菌量変化の動態を16S ribosomal DNAを対象として解析した。手術開始直前では、結膜嚢から培養陽性かつ多くの細菌が認められたが、術野のsetting後は、開始前の15%程度までただちに減少し15分の手術時間中低い数値が維持された。また、混合線形回帰の結果、培養陽性である場合16S ribosomal DNAによる細菌量は、培養陰性に比べて30倍増大することが判明した。一方、恒常的細菌叢の総量と想定される開始前の細菌量は、年齢や性別と関連がないものの高齢者では、培養陽性と年齢は弱いが有意な相関を認めた。以上より、初老期以後の正常者では、眼表面の常在細菌の総量は年齢と無関係ではあるが、年齢とともにその細菌プロフィールが変容し培養同定可能な細菌の相対的比率が増していくことが示唆された。 そこで、病原性細菌と常在細菌叢の関連性を検討するため、実際に細菌感染が疑われ眼表面の16S ribosomal DNA量を測定した273例273眼の患者を対象として、16S ribosomal DNA量を測定した。まず、まず16S ribosomal DNAの確定診断への有用性を評価した結果、1000コピー以上なら病因と関連する可能性が高いことが判明した。次にこのカットオフ値以上の数値を示した患者サンプルの16S ribosomal DNA領域のsequenceを行った。その結果、細菌性角膜炎と診断された症例においては、培養にて原因と推定された菌種以外の細菌が想定以上に多く認められ、これらの菌種の病態の間接的な寄与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年齢や生活環境あるいは病的状態、抗菌薬投与・眼科手術を含めた治療に反応してmicrobiomeがいかに応答するかを解析し、リスク因子の同定、さらには新たな眼内炎予防および感染対策手法の構築を目的としている。 まず、最も一般的な眼科手術である白内障手術を対象として、術中における術野の汚染度を評価し、有効な消毒手法の確立をはかるため、術中にヨードによる眼表面の潅流を試みた。その結果、とくに手術開始時の念入りなsettingが重要であることが判明し、さらにプロトコールを最適化するための基礎データをえることができた(投稿中)。興味深いことに術中の細菌量は眼表面では非常に低いレベルに保たれており、少なくとも短時間の手術の間においては想定された再汚染の機会の可能性はかなり低いことが判明した。おそらく潅流によると考えられる無菌に近い低細菌量が、術中は達成できており、合併症がない限りにおいては術中の細菌叢の評価自体はむしろ意義が低いことが示唆された。 そこで、実際に、感染がうたがわれた角膜炎患者を対象として細菌叢の詳細な評価をはかるべく解析をすすめている。まず、273例273眼の患者サンプルを対象として、実際に培養で検出された細菌、さらに16S ribosomal DNA測定で検出できる細菌叢のプロフィールの解析に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
一般的な細菌叢の詳細な解析は次世代シークエンサーを必要とするが、その費用面の制限から多検体を解析することはできない。Microbiomeは、皮膚細菌叢に関して眉間・腋下・手掌・前腕など詳細なdatabaseが構築されつつあり、費用対効果比をあげるためには、これらを最大限に利用し、健康正常成人を対象に眼表面の細菌叢のプロファイルを構築する必要がある。一般的には、microbiomeは個人、年齢、職業、性別、抗菌薬の使用、さらに紫外線によっても異なることが知られているため、本研究においてこれらの要因を踏まえ、眼表面の細菌叢の全容を明らかにする。そこでまず一段階目の解析手法として16S ribosomal DNAの定量および細菌培養、二段階目の解析として16S ribosomal DNAの定量により多くの細菌量が検出された検体のsequenceによる細菌の同定、さらに最終段階として検出された16S ribosomal DNAの次世代シークエンサーによる網羅的解析を予定している。サンプル数の十分な集積はあるため、これまで二段階目の解析に着手しており、データの取得をまって一般化線形混合回帰により解析を試みていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
調達方法の工夫などにより、当初計画より経費の節約ができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
分子生物関連試薬および消耗品購入に充当する
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