研究課題/領域番号 |
15K20261
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
佐々木 慎一 鳥取大学, 医学部, 助教 (30745849)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 角膜炎 |
研究実績の概要 |
正常者における眼表面のモデルとして、白内障手術の際の正常眼表面細菌の動態を解析した。まず通常の眼科手術時の消毒方法を用いた時、手術施行時間中に細菌量がいかなる動態をしめすのかを検討した。手術時にもっとも汚染が懸念されるステップの汚染度を検討するため、細菌ゲノムを規定する16S ribosomal DNA領域を標的として解析した。その結果、白内障手術時の通常の消毒方法においては、手術を通してみた場合十分な消毒効果が得られていない可能性が考えられた。そこで、適切なタイミングのみに限定して術中イソジン洗浄を併用した方法の有用性を通常の消毒法と比較を行いその有用性を報告した。 病的状態における眼表面の細菌動態を臨床面から理解することを試みた。まず、角膜潰瘍や角膜びらんなど治療を必要とする疾患を対象に解析した。病態が、眼表面の細菌叢が正常者でも保有する常在菌に影響されているのか、あるいは病原性を発揮しえる細菌感染により発症しているのかを評価するため、通常の細菌培養に加え、16S ribosomal DNAコピーの定量、さらにその領域のシークエンスを行い、細菌叢が病態へいかに寄与しえるのか関連性の評価を行った。 アカントアメーバや細菌感染がいかなる状況において正常者に感染しやすくなるかに関して詳細な知見はない。そこで、正常なコンタクトレンズ(CL)装用者より回収したケースの汚染度を正常者の細菌叢の指標として評価することを試みた。CLケースの汚染度を評価するため16S ribosomal DNAコピーの定量を行い、レンズの使用状況との関連性を共分散構造解析によりリスクの高い要因を抽出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
白内障手術における眼表面細菌叢動態を理解することは、術後眼内炎の予防方法の策定に非常に有用である。これまで術中の細菌量の動態を解析し、16S ribosomal DNA定量は、この評価にとって充分な感度や再現性をもつことが判明してきた。そこで次に、細菌叢の影響の評価をより詳細に解析することを次のステップとして検討かつプロトコールの立案を試みている。 病的状態における眼表面の細菌動態を16S ribosomal DNAコピーの定量及び検出細菌のシークエンシングによる同定を試みた。その結果、とくに細菌感染が明確になるにつれ検出細菌は培養結果と一致していた。一方、感染と正常の境界症例においては培養では検出されない多様な菌種が同定されこれらが病像の形成に関与している可能性が考えられた。この解析をすすめていく中で、診断上、感染性角膜炎を完全に分類できる項目を抽出する必要が生じた。将来的には、細菌性角膜炎の診断は、診断プログラムにより判定できるようにできることを目指している。しかし、それらのプログラムの構築及び診断能力の至適化のためには教師データが必要であり、教師データとしていかなる次元の情報を収集すべきかの検討が必須である。そこで教師データとなるデータベースを構築するため、いかなる教師データであれば主観の入らない臨床診断が可能かを潜在クラス解析を含めた応用統計手法を用いて検証しつつある。 前年度にひきつづき正常なコンタクトレンズ(CL)装用者より回収したケースの細菌叢解析をより詳細に進めつつある。アカントアメーバや病原性の強い細菌汚染に影響する要因を探るため同サンプルを用いて次世代シークエンサによる細菌叢解析に着手し、現在、シークエンスリード作業に取りかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
細菌叢の詳細な解析は次世代シークエンサーを必要とし、費用面の制限から臨床データと関連が抽出できる検体をサンプリングする必要がある。また、得られるデータからいかに有用な情報を抽出するかに関してもパイロットスタディを試みた上で積み上げていく必要がある。まず、次世代シークエンサーによるデータ解析は、えられるリードが膨大であり、解析にもワークステーションなどのリソースを必要とする。そこで香川大および近畿大との共同プロジェクトとしてシークエンサーの解析を発展させる方策を進めている。これにより、より短時間でかつローコストに正確なデータが得られるのではと推察している。 現在、種々の詳細な臨床情報に紐付けられたサンプルの解析は、まず一段階目として、16S ribosomal DNAの定量および細菌培養、二段階目16S ribosomal DNAのシークエンシングによる細菌の同定、3段階目として16S ribosomal DNAの次世代シークエンサーによる網羅的解析と順に施行しつつあり、次年度はえられた情報を多変量解析を含めた種々の応用統計手法で検証をさらにすすめていく必要がある。 細菌叢の寄与の影響はマウスモデルを用いて検証することができる。これにより臨床統計からえられないエビデンスをえることができると考えている。しかし、解析をすすめていくにあたり、想定以上に複雑な相互関連性をみとめつつあり、そのレベルにアプローチする前にさらなる臨床データの集積が必要では考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画より経費の節約ができたため
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次年度使用額の使用計画 |
分子生物関連試薬および消耗品購入に充当する
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