未熟児網膜症は本邦の小児の失明原因の第一位(40%)であり、近年、症例数の増加や重症化が社会問題となっている。未熟児網膜症の本態は、網膜における病的な血管新生であるが、その病態は未だ不明な点が多く、現在の治療法は重篤な合併症を伴うという欠点がある。申請者らはこれまでに、細胞のエネルギーセンサーと呼ばれるAMP活性化プロテインキナーゼ(以下AMPK)の活性化が、他の眼疾患において血管新生を抑制する効果があることを明らかにしてきた。そこで本研究では、未熟児網膜症の病態におけるAMPKの役割を解析する。そして、AMPKの活性を制御する事で未熟児網膜症の発症や進行を阻止する事が出来るかどうかを明らかにし、未熟児網膜症の新たな治療法開発の基盤となる研究を行う。 今年度は、眼球発達期の網膜形成におけるAMPK活性を検討すべく、網膜血管形成期の網膜を時間経過と共に単離しAMPK活性の変化を生化学的手法で解析した。しかし、検体量が少なく、また技術的に未熟で網膜の摘出に時間がかかったため、安定した測定が困難であった。この手技については、今後さらなる技術向上を必要とする課題であることが明らかとなった。上記の動物実験を行う一方で、細胞を用いた実験にも着手した。網膜における血管新生を考える上で、網膜色素上皮細胞は血管新生とその抑制の鍵をにぎる因子を産生する重要な細胞である。そこで、ARPE-19と人iPS細胞由来網膜色素上皮細胞を用いて、未熟児網膜症の病態でみられる酸素濃度の変化がこれらの細胞におけるAMPKの活性化に及ぼす影響を検討した。また、酸素濃度の変化に伴う、網膜色素上皮細胞由来の血管内皮増殖因子や色素上皮細胞由来因子の産生量の変化についても検討した。現在のところ実験条件の設定を行っている段階であるが、今後、酸素濃度の変化幅を定め網膜色素上皮細胞におけるAMPKの活性化に及ぼす影響や各種血管制御因子に及ぼす影響を明らかにしたい。
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