本研究では、透明性を有する角膜の創傷治癒過程において瘢痕形成をさせず、角膜を混濁させない治療方法の開発を目的として実験を進めた。 角膜の創傷治癒過程において瘢痕を抑制する可能性のある薬剤として、NR4A1アゴニストであるCystrosprone B(CsnB)およびTGF-β阻害剤であるLY2157299に着目をした。TGF-βが一過性に発現上昇した際にNR4A1は発現が誘導され、負のフィードバックとしてTGF-βの線維化誘導作用を制限するため、アゴニストであるCsnBは線維化を抑制することが報告されているからである。LY2157299は瘢痕形成のキープレーヤーとなるTFG-βを阻害する。 平成27年度にはゲル収縮実験にて、TGF-β刺激、TGF-β+CsnB刺激、TGF-β+LY2157299刺激、刺激なしで比較をすると、TGF-β刺激で収縮していたゲルと比較し、TGF-β++LY2157299刺激ではゲル収縮の程度は変わらず、TGF-β+CsnBではゲル収縮抑制をかけることがわかった。これによりCsnBがTGF-βの働きを阻害していることを解明した。 また培養ヒト角膜実質細胞(HKC)を用いて、TGF-β刺激、TGF-β+CsnB刺激、CsnB刺激、刺激なしで筋線維芽細胞のマーカーであるαSMAの発現について確認をした。TGF-β刺激したHKCではαSMAが多く発現し、TGF-β+CsnB刺激を行ったものは、TGF-β刺激のみのHKCと比べてαSMAの発現がわずかであり、CsnBにより角膜実質細胞の筋線維芽細胞への分化転換を抑制することを解明した。 平成28年度には角膜切創モデルを用いてCsnBおよびLY2157299による瘢痕抑制について評価を行ったが、結果に再現性が得られなかった。
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