Toll様受容体が病原体を検知すると、細胞内シグナル伝達分子であるTRAF6を介して 転写因子NF-κBを活性化、免疫応答を惹起する。TRAF6欠損T細胞は内因性リガンドの刺激を受け常に活性化、炎症を引き起こし深刻な病態をもたらし、また、TRAF6欠損マウスは自己免疫疾患様の慢性炎症を引き起こす。我々の眼病変解析で、TRAF6欠損マウスは涙腺に強い炎症細胞浸潤、分泌上皮萎縮を認め、野生型マウスと比較して、涙液分泌量が低下していた。また、欠損マウスは生下時は角膜正常だが、加齢とともに角膜障害を生じ、次第に重篤化、扁平上皮仮性を生じた。また、欠損マウス角膜では著しい扁平上皮過形成を生じ、上皮下には強い炎症細胞浸潤がみられ、角膜内皮側に多数の血管新生を認めた。扁平上皮分化初期には、扁平上皮細胞特異的タンパク質(Smal lproline-rich protein1B)が分泌され、扁平上皮の角化が生じることが知られているが、TRAF6欠損マウスの角膜免疫染色でも、ヒトシェーグレン症候群患者と同様にSPRR1Bの著しい発現を認めることが、我々の検討で判明した。さらに加齢に伴う変化を検討するため、繁殖を行い多数例での実験を計画した。しかし、平成27年に大分大学動物実験部門BS区域で他講座のマウスが寄生虫汚染を生じ、TRAF6欠損マウスを含む同一飼育場所のマウス全てについても無菌化が必要になった。動物実験部門BS区域の汚染は10ヶ月後に終息した。以前に入手したマウスは寄生虫汚染により、その病態が修飾されていた可能性を考慮し、再度、寄生虫汚染がない無菌化マウスでその病態を評価するため追加研究を行ったところ、無菌化前と同様に、TRAF6欠損マウス角膜で、シェーグレン症候群・ドライアイで増加を認める遺伝子が著しく上昇していることが確認された。以上の検討から、TRAF6欠損が疾患発症に影響を与える可能性が示唆された。
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