通常の網膜色素上皮細胞とサイトメガロウイルス抗原提示網膜色素上皮細胞の共培養によるサイトカイン産生を測定したところ、TGF-βの産生並びに炎症性サイトカインであるTNF-α、T細胞の遊走を誘導するケモカインであるMIP-1α・βの産生を確認した。このことは、網膜色素上皮細胞においてサイトメガロウイルスが感染すると炎症性の反応を誘導しつつ、眼内の過剰な炎症を制御するために制御性T細胞を誘導することで恒常性を維持しているものと考えられる。 また、iPS細胞を用いて網膜色素上皮細胞並びにキラーT細胞への分化誘導を行った。これらの細胞を用いて、これまでの研究との比較実験を行ったところ、同様の結果を得ることが出来た。 今後、HLAのミスマッチによる排除機能を回避した免疫応答の系を樹立することで、さらに詳細な恒常性維持のメカニズムを解析できることが期待できる。 一方で、造血幹細胞に対するサイトメガロウイルスの感染系においては、より生体内における造血幹細胞の生存条件に即した低酸素状態での実験を行った。その結果、通常の酸素濃度で見られた分化誘導が抑制され、さらに細胞の増殖についても抑制されることが確認できた。このことは、低酸素状態におけるウイルス感染では発現遺伝子が変化し、感染メカニズムを酸素濃度によって変えていることを示唆している。 今後、このメカニズムを詳細に解析することで、潜伏感染に至る機序や再活性化する場所の酸素濃度によりサイトメガロウイルス特有の疾患の原因を解明できることが期待できる。
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