加齢黄斑変性や網膜色素変性などの網膜変性疾患は視細胞の細胞死(視細胞死)を生じ失明に直結する難治性疾患である。視細胞は一度ダメージを受けるとその後の再生は不可能であることから、網膜変性疾患の治療においてはどのようにして視細胞を保護していくのかを検討していく必要がある。しかしながら、現在までに視細胞を直接に保護する治療戦略は開発されておらず、新たな方法を検討しなくてはならない。本研究の目的は我々がこれまでに検討してきた網膜局所炎症の視細胞死への影響、特にCCL3-CCR5ケモカイン経路に着目し新たな視細胞保護を狙う治療戦略を考案することである。 ケモカインはマイクログリアを含む炎症細胞を遊走させるサイトカイン群である。我々の検討によると光障害誘導急性網膜変性においてMacrophage inflammatory protein (MIP)-1ケモカインに含まれるchemokine (C-C motif) ligand 3 (CCL3) およびCCL4は他のケモカインに先駆けて上昇した。このことはこれらMIP-1ケモカインが網膜内炎症カスケードの引き金となっている可能性を示唆している。 Chemokine (C-C motif) receptor 5 (CCR5)はCCL3およびCCL4の共有レセプターである。また、HIV(human immunodeficiency virus)感染症においてHIV に高度に暴露されているにもかかわらず,HIV に感染しないという特異な症例でCCR5 の遺伝子多型(CCR5Δ32 欠失)が発見されたことからHIV感染症治療の創薬ターゲットとして知られている。マラビロクは経口投与可能なHIV侵入阻害薬として承認されたCCR5を標的とする抗HIV薬である。我々はCCR5をマラビロクを用い薬物的に阻害することが網膜変性疾患における新規治療戦略となりうるのかどうかを検討中である。
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