網膜、視神経変性疾患患者の脳視覚視路の可塑性について、MRI、非侵襲的脳刺激法(TMS)を用いた研究である。中心視野障害をきたす変性疾患患者のMRI データは取得できたものの、脳刺激に対する患者の抵抗は強く正常人のみのパイロット研究にとどまった。しかし、正常者でも脳刺激による閃光覚の再現性に個体差があり、ナビゲーションを用いて第1次視覚野にTMSの刺激を行うことは可能であったが、閃光覚を評価することが困難であった。そのため変性疾患患者の対象を比較的有病率の高く、中心視野障害をきたす加齢黄斑変性疾患の患者に広げ、視覚障害者の脳視覚神経路の構造学的変化を調べるためdiffusion MRIの撮像を行った。それらMRIデータを解析したところ、正常人と比較した加齢黄斑変性患者の視索、視路でのFractional anisotropyは有意に低下していることがわかった。この結果は既報の他の変性疾患でも同様の所見であったが、さらに視野偏心度毎に解析を行ったところ、中心視野障害を有する加齢黄斑変性患者の中心視野の視放線のFractional anisotropyは有意に低下していた。視力とFractional anisotropy値が相関している視放線上の解剖学的場所も捉えることができた。これらの結果は昨今のiPS細胞を用いた視覚再建治療の際に網膜再建のみでの加療でなく、脳内の視路の再建も考慮する必要があることも考えられた。これらをまとめた英語論文を2018年6月にBrain Stracture and Functionに掲載することができた。
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