研究実績の概要 |
【背景・目的】昨年度の研究実績で、骨格筋由来多能性幹細胞シート・ペレット移植の効果と機能回復実績(Saito et al, PLoS ONE 2015)と共に、そのパラクライン効果も期待できることを報告した。本年度は、本幹細胞をできるだけ早期に臨床応用する一助として、そのパラクライン効果に特に注目し、「細胞移植を伴わない神経再生治療法」を検討してみた。その第一歩として、「骨格筋多能性幹細胞由来サイトカインミックス」の投与を試みた。 【方法】まず、骨格筋由来多能性幹細胞シート・ペレットを従来の条件で約1週間培養・増幅し、通常移植時同様の条件を整えた。その時点で、培養上清を破棄し、無血清/無サイトカイン培地にて、洗浄、その後同条件で一晩培養した。次に、その培養上清を採取、10,000rpmで遠心して不純物を除去したものを、「骨格筋多能性幹細胞由来サイトカインミックス」とし、分注・凍結保存した。前回同様のマウス顔面神経麻痺モデルを作成し、損傷直後から1週間に一度の間隔で、サイトカインミックスを経皮的に患部に注入(300μl/一回、実験群)を、計4週間で4回行った。術後4週で、前回同様の顔面神経電気刺激による、洞毛筋張力測定を行い、移植効果を評価した。培地のみを注入する群を対照群とした。 【結果・考察】洞毛筋張力測定結果から実験群は対照群に比べて、高い回復効果を示す傾向が認められたが、統計的有意差は認められなかった。しかし、傾向そのものは一貫していたことから、サイトカインのデリバリー方法(拡散を防ぐ)に問題があることが示唆された。今後、投与したサイトカインが長時間患部に止まり、徐々に徐放する方法(最適な足場材、コラーゲン、ポリグリコール酸等)を追加し、さらに検討を加えていきたい。
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