敗血症ではCD4+ T細胞をはじめとした免疫担当細胞のアポトーシスによる免疫麻痺が予後悪化につながる一方,異なるタイプのプログラム細胞死を惹起し得るオートファジーの関与は十分に解明されていない.本研究では,免疫麻痺とオートファジーの関連を明らかにするために,T細胞のオートファジーを特異的に欠損させたAtg5コンディショナルノックアウトマウス (CD4-Cre/Atg5f/f) に対して盲腸結紮穿孔 (CLP) 手術を行い,敗血症腹膜炎モデルを作成し24時間後に儀死せしめ解析した.CD4-Cre/Atg5f/fマウスでCD4+T細胞数の低下,アポトーシス活性の亢進を認めた.さらにCLP群のCD4-Cre/Atg5f/fマウスでアポトーシス関連遺伝子であるBIMやPDCD1の発現が亢進する一方,アポトーシス抑制遺伝子であるBCL2の発現は有意に低下していた.また,CD4+T細胞のIL-10産生はCLP群のCD4-Cre/Atg5f/fマウスで有意に上昇していた.そして,生存率はCLP群のCD4-Cre/Atg5f/fマウスで有意に低下していた.本研究により,敗血症の病態でT細胞のオートファジーはアポトーシスとのクロストークを介してプログラム細胞死を抑制し,生体保護的に働いている可能性が示唆された.現時点でオートファジーの制御による敗血症の治療につなげる段階までには到達していないものの,今回の研究結果を踏まえて治療への応用が見込まれる.今後ラパマイシンやインスリンなどオートファジーの制御効果(促進ないし阻害)が知られている薬剤の投与により,敗血症環境で細胞死の制御が行われるかについての詳細な検討を行い,最終的には個体の生存率を改善させることを目標としている.
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