研究課題/領域番号 |
15K20339
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
池田 光憲 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (60548444)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 全身性炎症症候群 / 腸内フローラ / メタボローム解析 / 腸管免疫 / 水素 |
研究実績の概要 |
ヒトの腸内には多種多様な腸内細菌が生息しており、腸管免疫系を中心とした複雑な腸内生態系を形成している。この恒常性がひとたび破綻すると、炎症性腸疾患などの腸管関連疾患のみならず、全身性疾患につながることが知られている。外傷や敗血症などの重症病態においても、腸管が標的臓器となって腸管免疫系が破綻し、全身性炎症症候群(SIRS)を惹起することが指摘されている。実際、我々はSIRSなどの重症病態において、腸内フローラの変化が予後や合併症の発生に極めて重要であることを報告した。また、近年では腸内細菌の代謝産物が注目されており、なかでも偏性嫌気性菌が産生する短鎖脂肪酸は腸内環境維持や生体防御に重要な役割を果たしている。しかし、これらの腸内フローラや代謝産物が宿主免疫にどのように関わっているのか解明されていない部分も多い。本研究では、以下の方法により腸内環境動態と宿主免疫のクロストークについて明らかにすることを目的としている。(1)侵襲動物モデルの作成。(2)腸内フローラおよび代謝産物を次世代シークエンサーやメタボローム解析を用いて網羅的に解析しプロファイリングを行う。(3)全身および腸管免疫を経時的に評価し、フローラや代謝産物との関連を見出す。 侵襲動物モデルとしては、マウスを用いたCLP(Cecal ligation and puncture)侵襲を加えた腹膜炎モデルを既に確立し、使用している。現在、侵襲時における腸内フローラの経日的な変動を次世代シークエンサーおよび定量的PCRなどを用いて順次解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、以下の方法により腸内環境動態と宿主免疫のクロストークについて明らかにすることを目的としている。(1)侵襲動物モデルの作成。(2)腸内フローラおよび代謝産物を次世代シークエンサーやメタボローム解析を用いて網羅的に解析しプロファイリングを行う。(3)全身および腸管局所免疫を経時的に評価し、フローラや代謝産物との関連を見出す。 侵襲動物モデルとしては、マウスを用いたCLP(Cecal ligation and puncture)侵襲を加えた腹膜炎モデルを既に確立し、使用している。現在、侵襲時における腸内フローラの経日的な変動を次世代シークエンサーおよび定量的PCRなどを用いて順次解析を進めている。現在まで、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
腸内細菌が産生する代謝産物のひとつとして、水素ガス(H2)に焦点を絞り、H2の生体内における役割を、SIRS動物モデルを用いて酸化ストレス制御の観点から評価する。H2は毒性の高い活性酸素種を選択的に還元する抗酸化剤として知られており、動物モデルでその効能を示した報告が散見される。特に重症病態においては生体に甚大な酸化ストレスが加わっており、腸内細菌が産生するH2が腸管内あるいは生体内において何らかのメカニズムにより酸化ストレスを制御し、生体防御に寄与しているものと推測される。最近ではH2の抗炎症作用や抗アポトーシス作用、ガス状シグナリング分子としての作用なども指摘されており、H2の潜在的な効能は非常に興味深い。腸内フローラと生体防御機構との相互作用を理解するうえでも、H2の役割を解明することは非常に重要であり、新たな治療戦略の開発にもつながる。しかし、実際に生体内においてH2がどのような役割をしているかを調べた研究はほとんどない。実験を以下の手順で行い、H2の有効性を探る。(1)生体内における水素動態をガスクロマトグラフィーを用いて測定する。(2)近赤外線in vivo imagingなどを用いて活性酸素の可視化を行う。(3)水素を実験動物に様々な方法で投与し、効果を評価する。水素は安全かつ安価で容易に入手可能であり、本研究で効果が示されれば、画期的なアプローチ法として臨床応用の道が開ける。
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