腸内フローラは宿主の生体防御機能に深く関与している。特に侵襲時においては、腸内フローラの恒常性が破綻し、腸管局所のみならず全身性の炎症へ発展することが知られているが、そのメカニズムについては十分に解明されていない。本研究では、重症病態における腸内フローラやその代謝産物の動態を網羅的に解析し、同時に腸管免疫応答との関連性について評価した。さらに、腸管内において腸内細菌により産生される水素ガス(H2)に着目し、外的な水素投与による治療効果と腸内フローラ動態の変化についても検討した。 まず、侵襲急性期における腸内細菌叢の変動を捉えるために、マウス敗血症モデルを用いて糞便試料のメタゲノム解析及び定量的PCR解析を行った。その結果、腸内細菌叢は早期よりダイナミックに変化し、特にEnterobacteriaceaeが顕著に増加していた。また、腸管上皮における免疫応答としてIgAの変動を評価したところ、同様に早期より顕著な増加が見られ、しかもEnterobacteriaceaeに特異的に結合していることが明らかとなった。また、代謝産物の変動をメタボローム解析にて評価したところ、明らかな経日的な変動が見られ、短鎖脂肪酸などの有機酸やポリアミンなどの腸内細菌由来の代謝物が早期より変化していることが示された。以上の結果は、侵襲期病態における腸内細菌叢と腸管免疫応答について統合的な解析をした点において有意義である。次に、同モデルに対して水素含有水を経胃的に投与したところ、Control群と比較して1週間生存率が改善するとともに、Enterobacteriaceae増殖の抑制効果が示された。分子状水素(H2)は抗酸化作用のみならず、抗炎症作用など様々な潜在的な効能が知らており、今後もその効能とメカニズムをさらに詳細に解析し、治療応用を目指す。
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