敗血症、重症外傷をはじめとする重症病態において、腸管機能不全の併発が予後を左右する重要な因子であることが近年注目されてきているが、全身侵襲時における腸管機能不全発症のメカニズムは未だ十分に解明されていない。我々は重症病態において腸管上皮幹細胞(intestinal stem cell)の機能が低下することにより腸管上皮の再生が阻害され、腸管蠕動不全やバリア機能不全を来しているという仮説を立て、CLPモデルを使用し、全身侵襲時の腸管上皮幹細胞の動態の解析を試みた。 CLPモデルに細胞の分裂・増加を反映するBrdUを投与し陰窩中の細胞分裂している細胞数につき検討した結果、減少傾向が見られた。 CLPモデル並びにSham Operation群に関して、腸管上皮幹細胞の増殖・分化の制御に関わる機能分子(Wnt3、Wnt3a、R-spondin1、EGF、BMP4、BMP2、Noggin、Notch1、Dll1、Dll4)、各腸管上皮構成細胞のマーカー(Lgr5、Alpi、lysozyme、Muc2、chromograninA)、炎症のマーカーであるIL-6をReal-time PCRにて核酸発現の解析をした。腸管上皮幹細胞の増殖・分化の亢進シグナルであるWnt3はCLP群で有意に低下しており、Wntに抑制的に働くBMP4、BMP2には差を認めず、BMPを阻害するNogginはCLP群で有意に低下していた。また、腸管上皮幹細胞マーカーのLgr5、パネート細胞のlysozymeがCLP群で有意に低下していた。 Lgr5-CreERマウスにCLP侵襲を加えると明らかにLgr5陽性細胞数が減少していた。 CLP侵襲にて腸管上皮幹細胞障害が起こることにより、絨毛萎縮や腸管蠕動不全が生じ、栄養障害や腸管免疫能の低下などにつながっている可能性が考えられた。
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