研究実績の概要 |
敗血症患者の救命率の向上に伴い、近年筋力の維持など、サバイバーの機能予後に焦点が当たるようになってきた。骨格筋再生能の障害は、敗血症サバイバーの多くに見られる、「敗血症誘発性筋萎縮」の鍵となる病態である。しかしこの病態に有効な治療は殆ど知られていなかった。 マウス筋芽細胞 (C2C12 cell line) を使ったこれまでの成果で我々は1) lipopolysaccharide (LPS) が筋芽細胞に作用して筋形成プロセスを阻害する現象と、2) Toll like receptor (TLR) 4阻害剤がLPSによる筋形成能低下を有意に回復させる事を見出した。更に、これらの分子機序に、LPSによる用量依存的なNFκB活性化と、これによるmyogeninおよびMyoD (正の骨格筋新生誘導因子) のダウンレギュレーション、およびmyostatin(負の骨格筋新生誘導因子) のアップレギュレーションが関与していることを明らかにした。 これらの成果に加え、本年度はTNFαの中和抗体を使った実験系で、C2C12筋芽細胞/筋管細胞がオートクリン/パラクリン分泌する炎症性サイトカイン(TNFα)が上記の病態に寄与する事を証明し、さらにTLR2中和抗体、もしくはTLR4選択的阻害剤を作用させることで、LPSの筋形成阻害はTLR2よりもTLR4の選択性が高い事を明らかにした。これに加え、LPSの骨格筋新生阻害効果は可逆性であり、細胞死誘導などの変化ではない事を証明した。 これらの一連の成果をまとめ、科学専門誌に発表する事ができた (Ono Y, et al. PLoS One. 2017)。これらの研究結果により、TLR4もしくは炎症性サイトカインの制御が、敗血症誘発性筋萎縮の新しい治療アプローチになり得ることが示された。
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