研究課題/領域番号 |
15K20351
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
粕田 承吾 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (70434941)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 急性アルコール中毒 / 敗血症 / pentraxin3 |
研究実績の概要 |
急性アルコール中毒マウス(Alc)を作製し、cecal ligation puncture (CLP)法を用いて、敗血症モデルを作製した。コントロール群(cont;生理食塩水投与群)と比較して、Alc群は有意に生存率が低下していることが示された。本実験では、アルコールがpentraxin3(PTX3)の発現を抑制することが、敗血症増悪の一因であることを明らかにしつつある。 PTX3は急性期相タンパクの一種であり、TNF-aの刺激によりJNKのリン酸化シグナルを介して全身の細胞から産生される。肺傷害や敗血症に対して進展予防効果があることがこれまでの研究で示されている。アルコール投与後、CLPマウスとshamマウスで血中アルコール濃度を経時的に測定したところ、CLPマウスではすべての時点で、血中アルコール濃度がshamマウスを有意に上回ってることが示された。次にAlc群の肺では、PTX3の産生が抑制されていること、肺の血管透過性が亢進していることを明らかにした。また、血中TNF濃度、PTX3濃度をCLP後に経時的に採血して調べることにより、アルコールはTNF濃度の上昇を抑制することを示し、それによりPTX3産生が抑制されていることを明らかにした。 また、肺組織のWestern blotによりアルコールはJNKリン酸化を抑制することによっても、PTX3の産生を抑制することを示した。 血管内皮細胞(HUVEC)を用いた実験では、低濃度アルコール(20 mM)はTNF-a存在下でもJNKのリン酸化を阻害することによりPTX3の産生を抑制することを明らかにした。以上のことから、アルコールはTNF産生とJNKリン酸化をともに阻害するという2重の機構でPTX3産生を抑制し、敗血症の進展を助長する可能性が示された。今後の敗血症治療において急性アルコール中毒患者に限らず、有用な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルコール摂取により、PTX3の新規合成が抑制されることが、real-time PCR、ELISA, western blotなどの各方法により確認できている。また、血中アルコール濃度とTNFならびにPTX3の血中濃度を経時的に測定することによって、アルコールがPTX3の発現に及ぼす影響を詳細に検討できた。 さらに、肺組織の検討によって、アルコールが白血球浸潤を阻害することを見出し、白血球中に存在するPTX3の利用が阻害される可能性も見出しており、これは当初の想定の範囲外であるが、有意義な結果が得られている。 特に、血中アルコール濃度の測定により、当初想定しいた高濃度アルコール(160 mM)のみならず、アルコールはわずが20 mMの濃度でもPTX3の産生に影響を及ぼすことが確認できた意義は大きい。当初の予想通り、Alc群において、肺内でのJNKリン酸化が抑制されていることが確認できている。さらに、HUVECを用いた実験によりTNF存在下でも低濃度アルコールがJNKのリン酸化を阻害することによってPTX3の産生を抑制することが明らかにできた。 アルコールによるPTX3の発現抑制機序を様々な観点から解明しつつある点において、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
PTX3は、急性期相タンパクとして、病原体を認識し、自然免疫を発動させる重要な役割を担っている。これまでにも敗血症や急性肺傷害の進展予防に役立つことが報告されている。近年、ネクローシスをおこした細胞から放出されるヒストンと結合して、ヒストンによる血管な皮細胞傷害を抑制することが明らかにされた。これとは別に、PTX3は白血球から感染時に放出されるneutrophil extracellular trap (NETs)の構成成分であることが示されている。NETsの主成分は、neutrophil内のDNAである。NETsは感染防御に重要な役割を果たすが、過量になると血管内皮細胞に傷害をもたらす。以上のことから、今後は、アルコールがヒストンやNETs形成に対してどのような影響を及ぼすのかを考察していきたい。血管内皮細胞傷害は敗血症の予後を決定する終末病態に関与する。すなわち、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などはすべて血管内皮細胞傷害に起因するものである。アルコールと、血管内皮細胞傷害についての知見は今後の敗血症治療に大きな貢献をすると考えられる。
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