研究課題
一酸化炭素(CO)はヘム代謝を担うヘムオキセゲナーゼ(HO)により恒常的につくられており、ストレス誘導型のHO-1の細胞保護作用は、その代謝物質であるCOに起因するとされる。COは生理的であるが、治療濃度(20~500ppm)の短時間の吸入で強力な抗炎症作用、抗アポトーシス作用があることが報告されており、今回の研究はドナーグラフトの虚血再灌流傷害を抑制するメカニズムを探求する事である。前年度に行った、CO吸入を24時間行ったドナー心臓組織のGene arrayから得られた結果は、想定していた抗炎症性メディエーターや抗アポトーシス物質、抗酸化物質等の期待した物質の遺伝子発現は得られなかった。そのため今年度は吸入一酸化炭素(CO)濃度、吸入時間の見直しを行い、再度ドナーグラフトの機能の評価を行うことで最適な条件の検討を行った。さらにmRNAの抽出、精製を見直し、カラム法やその他安定化試薬の使用など工夫を行ったが十分な検体を得るに至っていない。そこで前年度の移植後3時間で差が見られたTNF-α、IL-6、iNOS、ICAM-1、ET1、VEGFなどに絞りCO吸入24時間行ったドナー心臓組織でmRNAを抽出しquantitative RT-PCRにより発現量を測定したが、移植後3時間で得られたような結果は得られなかった。検体採取ポイントを新たに設定し直す必要がある、またはタンパク発現を検討する必要があると思われる。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたgene arrayまで 前年度に施行することが出来たが、期待された結果が得られなかったため再検討を行った。初期条件の見直しを行い、実験を施行するも、期待される結果を得ることはできなかった。しかしながら、血清生化学評価、分子生物学評価、病理学的評価ではCOの有用性を示唆する、有意差のある結果が得られたため、これまでのデータをまとめ論文執筆を行い出版まで至った。ほぼ計画通りに進行しており概ね順調に進行していると思われる。
COの有用性をさらに探求するため、グラフトの血管内皮細胞や心筋細胞の形態学的評価を電子顕微鏡を使用し行うことを検討している。また抗酸化タンパク質の発現調節を担っているNrf2-ARE経路に関し、COが細胞内に取り込まれた後のシグナル伝達を検索し、関連を調査していきたい。ドナー脳死モデルの確立には習熟を要する。当初は気管切開の予定であったが、経口挿管し人工呼吸をすることで侵襲を減じ、安定したモデルを作成すべく実験を進めていく。
Gene arrayが想定より安価に施行できたため、今年度の予算が一部繰り越される事になるが、その他の予算で大きな齟齬はないと思われる。
次年度は安定したモデルを作成する事、それが困難であれば新たな実験系を確立する必要があると思われ、追加で機器を整備する必要が出てくる可能性が有ると思われる。当初の予定を遂行すべく実験を進めていく予定である。
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Medical Gas Research
巻: volume6 ページ: 122-129
10.4103/2045-9912.191357