本研究の目的は、一酸化炭素(CO)吸入による虚血再環流障害予防効果を探求し、実際の臓器移植の前処置として応用可能になりうるかを追求することである。前年度までに、ドナーラットに250 ppm濃度のCO吸入を24時間行った後に心臓移植を施行し、移植後6時間において通常大気吸入群に比べ、CO吸入群が虚血再灌流障害を予防したことを報告した。本年度は予定どおり、COの詳細な作用機序を解明すべく、移植されたグラフトを用いた血管内皮細胞や心筋細胞の形態学的評価を試みたが、技術的な改善がいくつか必要であり、現時点ではまだ統計学的に解析可能な検体数が集められていない。また、生体内のストレス誘導型ヘムオキシゲナーゼ-1 (HO-1)による細胞保護作用や、COが有する抗炎症作用や抗アポトーシス作用、抗酸化タンパク質の発現調節を担っているNrf2-ARE経路に関しても現在検討中であるが、n数が少なく、有意な差は現時点では認められていない。これまでの検討からレシピエント内で再灌流が起こった後で細胞保護作用が出現する可能性も示唆され、ヘム蛋白など直接標的分子と結合し機能を発現している可能性もあると考えている。 また3年目に施行予定であったドナー脳死ラットモデルの作成には習熟を要した。当初の予想通り気管切開下としたモデルでは安定しないため、極力侵襲度を減じるため経口挿管に変更した。ラット用人工呼吸器を使用し一定濃度のCO吸入を行う事は可能であったものの、ドナーグラフト採取までの時間設定を先行研究の通り24時間とすると麻酔の影響が大きいため、3時間、6時間で設定したが、脳死モデルの侵襲に暴露されてから早期であるためか、移植後グラフトの状態が安定せず、十分なn数を確保する段階に至らなかった。
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