研究課題
炎症応答は梗塞後リモデリングに重要な位置を占め、中でもマクロファージは炎症組織環境に大きな影響を与える。マクロファージの機能解明は梗塞後リモデリングの病態解明に繋がると期待されるが、梗塞後の時間経過に沿って変遷する機能の解明は容易ではない。梗塞後組織で高値となるIL-6はJAK/STATシグナルを活性化しマクロファージ機能を調節するとともに、ネガティブフィードバック因子SOCS3(Suppressor of cytokine signaling-3)を誘導する。マクロファージ特異的にSOCS3遺伝子をノックアウトすると(以下、mSOCS3-KO)、IL-6による炎症応答が大きく変化し、in vitroの分化系ではM1に強くシフトするようになる。本研究の目的は、マクロファージ特異的SOCS3ノックアウを用いて、梗塞後リモデリングにおけるマクロファージの機能、サイトカイン環境、組織炎症の関連を明らかにすることである。本年度はマウス左冠動脈前下行枝の結紮による心筋梗塞モデルを確立した。梗塞作成後14日間の生存率、及び梗塞範囲の評価を行った。現時点では有意差は認めないものの、mSOCS3-KO群で低下傾向を認めた。Azan染色による線維化評価においては梗塞範囲に差は見られなかったが、HE染色では心筋内出血が多い傾向にある。mSOCS3-KO群では第3~5日目にかけての心破裂発症率が高い傾向にあり、今後は急性期病態にも着目して解析をすすめていく。
3: やや遅れている
遺伝子改変マウスの繁殖・飼育管理を委託している動物会社において、マウス糞便中からの原虫感染が確認された。施設内のマウス、今回使用している同系統のマウスにおいてもクリーニング処置が行われたため、実験の進行に遅れが生じた。現在は、実験に必要な適齢週のマウスは確保出来ている。
心筋梗塞作成後14日間の観察期間における、野生群・KO群における生存率、心破裂発症率の検証を継続する。本研究では病態解明を行うにあたり、梗塞後リモデリングの病態を超急性期(心筋壊死とアポトーシス)、急性期(組織破壊と心破裂)、慢性期(線維化進行)の3つの時期に分け、それぞれの時期における組織評価、マクロファージの機能、サイトカイン環境、組織炎症の関連を明らかにする。慢性期リモデリング評価として、梗塞作成後14日目におけるHE染色・Azan染色の評価、定量解析を引き続き行う。また、超急性期の梗塞範囲としてはEvansBlue染色・TTC染の二重染色、アポトーシス評価としてTUNEL染色を実施する。急性期の心破裂に伴う心筋内出血の評価としてTer119抗体免疫染色により心筋内出血面積を定量化し、二群間で比較する。浸潤マクロファージ数、M1/M2比(フローサイトメトリー)の評価、各種サイトカインの発現(qRT-PCR)、及びM1/M2サイトカインのシグナル分子活性化(蛍光染色イメージングサイトメトリー)では、組織切片でマクロファージ(Iba1)、線維芽細胞(FSP-1)、心筋細胞(心筋アクチン)と各種シグナル分子を多重染色し、サイトカイン環境と対応させて解析する。以上の解析から、心筋梗塞発症後の超急性期から慢性期までの各時期に、マクロファージが果たす役割と、マクロファージの機能分化にサイトカインシグナルが果たす役割が明らかになる。
研究の進行状況により、次年度に延期した実験が生じたため。
次年度以降の実験で使用します。
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