本研究は、ヒト口腔常在細菌叢を構成するアンギノーサス群連鎖球菌の中で、β溶血性Streptococcus anginosus subsp. anginosus(β-SAA)が産生するSLSホモログの分子特性や作用特性を明らかにすることを目的とし、2カ年の計画で実施した。 平成27年度には、β-SAA由来SLSホモログと、比較対象として化膿性連鎖球菌(SPy)由来SLSについて、組換え体の発現・調製システムの構築を行った。結果として、既存の発現系(大腸菌発現系など)ではなく、β-SAAに備わる本来の生産システムを利用し、検出と精製を容易にするためのHisタグを付加した組換え体(タグ化SLS)の発現系を構築した。 続く平成28年度には、タグ化SLSの分子特性や細胞障害性などについて検討を行った。まず、タグ化SLSの精製法に関する検討を行い、ニッケル親和性を利用した一段階での精製系を確立した。精製したタグ化SLSは赤血球に対して溶血活性を示したが、培養細胞に対しては明確な細胞障害性は確認されなかった。そこで、細胞障害性についてはSLSホモログ産生株および非産生株を用いた共培養系で検討した。その検討の一つ、マイクロアレイ解析の結果より、ヒト由来株化細胞(HSC-2およびTHP-1)に対してSLSホモログ依存的な応答反応、具体的には転写調節因子の発現量がSLSホモログ依存的に増加していることなどを示唆する結果が得られた。 本研究によって、これまで不明であったβ-SAA由来SLSホモログに依存した細胞応答メカニズムの一端を明らかにすることができた。現在も引き続き検討を行っており、この一連の検討により、β-SAAの新たな細胞障害因子として注目されるSLSホモログの分子特性や細胞に対する作用特性について明らかにし、β-SAAの病原性との関連について検討していきたいと考えている。
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