研究実績の概要 |
我々は、PLC-related catalytically inactive protein (PRIP) が新規の細胞膜PI(3,4,5)P3 の調節タンパク質であり、PI(3,4,5)P3 依存的な細胞移動やAkt 経路のシグナリングを制御していることを見出した。ある種の癌細胞では、このような PI(3,4,5)P3 関連経路 (PI3K-Akt経路) が活性化しており、癌細胞増殖や転移能亢進の要因となっている。本研究では、PI3K-Akt経路の制御が破綻し増悪化した癌細胞の転移がPRIPの発現によって抑制できるか検討した。PTEN の欠失によってPI(3,4,5)P3 量が恒常的に増加している乳癌細胞BT-549にDsRed2-PRIP1を導入し、PRIP1を恒常的に発現し、かつ蛍光を発することでマウス生体内においてその局在をトレースすることのできる細胞株を樹立した。この細胞をヌードマウスの側腹部乳房近傍の皮下脂肪内に移植し、in vivo リアルタイムイメージングを行い、転移の様子を調べた。移植後1週間では、DsRed2ベクターを導入した細胞(コントロール)とDsRed2-PRIP1を導入した細胞はともに移植部位近傍で観察され、その蛍光強度(細胞数に依存)は同程度であった。移植後5週間すると、コントロール群はリンパ節への転移が顕著に観察されたのに対して、DsRed2-PRIP1を導入した細胞群ではリンパ節への転移が抑制された。このDsRed2-PRIP1を恒常的に発現するBT-549細胞はin vitro random migration assayにおいても顕著に細胞移動が抑制され、PI3K活性も低下していることが明らかとなった。これらの結果は、PRIPによるPI3K制御が癌転移抑制に効果があることを示唆している。
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