研究課題/領域番号 |
15K20374
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
長野 公喜 九州大学, 歯学研究科(研究院), 研究員 (60737089)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Akt / リン酸化 / 開口分泌 / GLUT4 / SNARE |
研究実績の概要 |
糖尿病との遺伝的相関が指摘されているtomosyn(開口分泌調節タンパク質)がインスリンによって活性化されるリン酸化酵素 Akt の基質であることを見出した。今年度はAkt による tomosyn を介した GLUT4 (糖輸送担体) 輸送の調節機構の解明を目指した。 Akt と tomosyn の組換タンパク質を精製して試験管内リン酸化実験を行ったところ tomosyn は Akt1およびAkt2 によってリン酸化された。リン酸化部位と予測された 783 番目のセリン (S783) をアラニンに置換した変異体 (S783A) ではリン酸化が起こらなかった。HEK293 細胞を用いた再構成実験でもインスリン刺激によって tomosyn のリン酸化が亢進することを確認した。次に Akt による tomosyn のリン酸化が GLUT4 小胞輸送に関わる SNARE タンパク質 syntaxin4 との結合に及ぼす影響を調べた。syntaxin4 の組換タンパク質を精製し試験管内結合実験を行ったところ、両分子の結合は Akt による tomosyn の S783 のリン酸化によって抑制された。CHO-K1 細胞に発現させた tomosyn でもインスリン刺激依存的にリン酸化されて syntaxin4 との結合が抑制されることを確認した。続いて tomosyn を発現する細胞で GLUT4 輸送を調べたところ、インスリン刺激に伴う GLUT4 の細胞表面への発現亢進を認めたが、S783A 変異体を発現する細胞では発現亢進が認められなかった。以上の結果から、Akt はインスリン刺激に伴って tomosyn のS783 をリン酸化することで syntax4 との結合を調節し、GLUT4 輸送を制御することが示唆された
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インスリンによる GLUT4 輸送の制御機構をモデルにその膜融合過程における tomosyn の役割を Akt によるリン酸化の意義を中心に解明することを目指している。当初の目標であった tomosyn のリン酸化による syntaxin4 との結合調節機構を試験管内実験で明らかにし、さらには GLUT4 膜発現アッセイ法を用いて tomosyn が Aktによるリン酸化を受けて GLUT4 輸送を制御していることを示して、論文掲載にまで至った。従って計画は順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はインスリンシグナルとは異なる経路での tomosyn を介した GLUT4 輸送促進の可能性を検討していく。タンパク質リン酸化酵素 PKA は tomosyn の760番目のセリン (S760) をリン酸化し、Ca2+ 依存性神経伝達物質放出を調節するという報告がある。PKA による tomosyn を介した分子機構で GLUT4 輸送が促進される可能性を探るため、試験管内実験、細胞レベルの実験により解析を進める。また、オステオカルシン (OCN) による筋細胞や脂肪細胞のインスリン抵抗性改善に関するシグナル解明の研究の蓄積が進んでいる。そこで本研究で構築した実験系を用いて OCN によるインスリン抵抗性改善の分子基盤の解明を目指す。同時に OCN - PKA - tomosyn 経路の可能性についての検討も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりも早く実験成果が得られ論文執筆に至ったため、試薬や細胞培養液など使用する消耗品等の節約につながった。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度に確立した実験モデルを用いて研究を進める。実験を遂行するための各試薬や器具類等は初年度と同程度必要になるため、この購入費に充てる。また得られた成果を学会および論文として発表するための旅費および出版費として使用する。
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