研究課題
口腔がん治療の副作用などで口内炎が発症すると,口腔粘膜バリアが失われてしまうために組織内への口腔内細菌の感染を許してしまう.粘膜上皮の破壊自体による痛みに加え,この感染は炎症を引き起こすことから口内炎疼痛を増悪させ,治癒を遅らせると考えられる.しかし,その疼痛発症機序については,ほとんど研究されていない.本研究では,口腔粘膜バリアが破壊されている口腔潰瘍モデルラットにおける細菌感染と疼痛との関連性を明らかにし,口腔組織および三叉神経節から分泌される抗菌ペプチドの役割について検討することを目的とした.下歯槽粘膜への酢酸処理により口内炎モデルを作製した.酢酸処理1日目では,粘膜部の軽度の発赤と腫脹がみられ,2日目においては,潰瘍を伴う明らかな口内炎が発症し,自発痛および酢酸処理部位の機械的アロディニアが認められた.また,口内炎部組織中の細菌コロニー数および炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β、 ブラジキニンおよびプロスタグランジンE2量が増加した.さらに,抗菌薬を飲料水に混ぜて摂取させたところ,口内炎の肉眼的スコアが減少し,疼痛の抑制が認められた.三叉神経節における,抗菌ペプチドとして知られるHamp (hepcidin antimicrobial peptide)およびSerpina3n (serine peptidase inhibitor A3N)のmRNA量は,酢酸処理2日目において増加した.しかし,抗菌薬投与群では増加は認められなかった.同様に、潰瘍部位におけるHamp mRNA量も酢酸処理2日目で増加し、抗菌薬処置での増加は認められなかった。以上より,酢酸処理による口腔粘膜上皮の破壊が感染性炎症を引き起こし,疼痛を伴う潰瘍性口内炎を発症すること,同時に,潰瘍部位だけではなく、感覚ニューロンにおいても抗菌作用を持つ遺伝子発現が増強される可能性が示唆された.
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Pharmacological Research
巻: 117 ページ: 288-302
10.1016/j.phrs.2016.12.026