臨床現場では顎顔面部異所性異常疼痛を訴える患者に遭遇することがある。原因として頸部筋炎や損傷が考えられるがしばしば歯原性疼痛と誤診される。申請者は以前にラットの僧帽筋に起炎物質complete Freund’s adjuvant(CFA)を投与し顎顔面部異所性異常疼痛発症を研究し報告したが、早期分子メカニズムに関しては不明のままであった。今回、異所性異常疼痛早期発現分子メカニズムを解明するために研究を行った。 僧帽筋炎モデルラットを製作した。SD雄性ラット7週齢♂を用い僧帽筋にCFAを30μL投与(model群)し、対照群として生理食塩水を30μL投与した。 経日的行動学的結果と中枢神経系における免疫組織学的な検討において以下の点を認めた。経日的行動学的結果ではvon Frey filamentを用いて15日間観察。4日目においてmodel群で逃避閾値の低下が認められた。術後4日目以前から、早期段階において閾値の低下が認められた。免疫組織学的な検討においては顎顔面皮膚に投射する侵害受容性ニューロンの部位である三叉神経尾側亜核(Vc)及び上部頚髄のマイクログリアの活性化を観察し、術後4日目にてその活性化が有意に認められた。得られた結果より、経日的行動学的結果から、異所性異常疼痛の発症とマイクログリアの活性化の発現に相関関係がある可能性が考えられる。また発症早期における分子メカニズムの関与が考えられる。通年を通した研究結果より、僧帽筋に炎症剤(CFA)を投与することにより、顎顔面部領域において、異所性異常疼痛が生じ、その経路は中枢神経系において、神経‐マイクログリア間の情報交換による可能性があると示唆される。
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