研究課題/領域番号 |
15K20381
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松田 彩 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 特別研究員(RPD) (60514312)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 腫瘍溶解ウイルス / 抗癌剤 / 口腔がん |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、我々がこれまで研究を続けてきた腫瘍溶解アデノウイルスが、シスプラチン(CDDP)に抵抗性を示す口腔がんに奏功し、併用療法として成り立つかを検討することである。CDDPは口腔がんの治療に広く用いられている抗癌剤の一つだが、CDDPに対して抵抗性を示す腫瘍があり問題となっている。これまで申請者らは、アデノウイルス(Ad)の増殖には細胞内のAU-rich element (ARE) -mRNAの安定化が必須であり、それにはAd初期遺伝子E4領域が重要であることを明らかにしてきた。多くの癌細胞では恒常的にARE-mRNAが安定化することが知られており、E4領域を欠失したアデノウイルス(AdΔE4)でも、癌細胞では増殖できると考えられ、我々はこのウイルスの腫瘍溶解効果について研究を行ってきた。本研究では、AdΔE4とCDDPとの併用療法について検討を行った。 申請者らは、口腔がん細胞株SASからシングルセルクローニング法によって、数種の細胞株を樹立した。それらの細胞株はそれぞれCDDPによる感受性が異なることが明らかとなり、感受性が低いものを耐性株、感受性が高いものを感受性株とした。これらの細胞に対するAdΔE4の腫瘍殺傷効果をXTT assayで検討した。その結果、耐性株と感受性株でAdΔE4の腫瘍殺傷効果にほとんど差がないことが示された。 SAS耐性株、感受性株で、CDDPとAdΔE4の併用による腫瘍殺傷効果をXTT assayで検討した。その結果、CDDPとAdΔE4の併用によりそれぞれの単独使用よりも腫瘍殺傷効果が増強されることが示された。 これらの結果より、CDDPとAdΔE4の併用によりCDDPの投与量を減少することができ、CDDPの副作用を低減させる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、我々がこれまで研究を続けてきた腫瘍溶解アデノウイルスAdΔE4が、CDDPに抵抗性を示す口腔がんに奏功し、併用療法として成り立つかを検討することである。 申請者らが樹立したCDDP耐性株、感受性株でAdΔE4の腫瘍殺傷効果にほとんど差がないことが示され、CDDP耐性株に対してもAdΔE4は腫瘍殺傷効果を持つことが示された。 また、CDDPとAdΔE4の併用によりそれぞれの単独投与よりも腫瘍殺傷効果が増強されることが示された。 以上の結果より、CDDP耐性腫瘍でもAdΔE4は効果があることが示され、またCDDPとAdΔE4の併用によりCDDPの投与量を減少することができ、CDDPの副作用を低減させる可能性が示唆された。 以上から本研究はおおむね計画通りに進行しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はマウスに移植した腫瘍においても、CDDPとAdΔE4の併用療法は効果的かどうか検討する。ヌードマウスに移植したCDDP耐性細胞株に対するAdΔE4の腫瘍溶解効果をin vivoで検証し、また実際にウイルスが腫瘍で増殖しているか免疫組織学的に検討する。 次にAdE4タンパクによるProcessing bodies (PB)の形態的変化について、分子生物学的に解明する。AdE4タンパクがARE-mRNAを安定化するメカニズムは明らかではない。そのひとつとして、我々はPBに注目している。真核細胞が種々のストレスに暴露された時、細胞質内にmRNP granulesが形成され、そのうちARE-mRNAを含むmRNAを分解する場となるのがPBである。これまでに、申請者らはE4によりPBに形態変化および不活化が起き、ARE-mRNAの分解機構に影響を与えることを明らかにしてきたが、詳細な分子メカニズムは未だに不明であり、この解明もAdΔE4を用いる上で非常に重要である。 申請者が既に入手している、PBの形態変化を起こさないE4のmutantの発現ベクターを用いて、PBの形態変化にどのPB構成タンパクが関与しているか検討し、そのタンパクの強制発現やknock downによりARE-mRNAの安定化に影響が生じるかどうか検討する。また、耐性細胞株と感受性細胞株において、PBの形態変化とARE-mRNAの安定化を確認し、PBの形態変化がCDDP耐性と関連があるかどうか検討する。もし関連があればこれまでに報告がない全く新しい知見である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当教室では以前よりウイルスやシスプラチンを使用する実験を行っており、ウイルスやシスプラチンを用いた実験に使用する機器や消耗品が充実しており、想像以上に支出を減らすことができた。 また、主要な学会が札幌開催であったため、旅行代金を節約することができた。 そのため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年は研究成果を発表するために国際学会に参加する予定であり、そのために旅費が必要である。 また、動物実験を行うにあたり、経費が予想よりも高額になることが考えられる。
|