研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の病態形成機構としては、肥満やインスリン抵抗性を起因とした脂肪肝に、腸管由来のエンドトキシン、サイトカイン、酸化ストレスなどのストレス因子が加わることで、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へと進展すると考えられている。近年、腸内細菌叢のバランス異常(Dysbiosis)がNAFLD病態進展に寄与することが示唆されている。とくに、NAFLDモデル動物や肝硬変患者の腸内において、Poryphromonas gingivalisなどの口腔細菌の下部消化管の定着が報告されている。そこで本研究では、口腔病原体が腸内細菌叢に与える影響に着目し、口腔細菌の異所性感染とNAFLD病態形成の関連性を解析した。食餌誘導性肥満マウスモデルにP. gingivalisおよびStreptococcus intermediusを持続投与した場合に、NAFLDの病態進展に与える影響を評価した。約12週間後の腸管および肝臓における炎症性サイトカインの産生を評価したところ、口腔病原体の持続投与は小腸あるいは大腸における炎症性サイトカインの産生に影響を与えなかったが、肝臓における炎症性サイトカインの産生能が亢進していることがわかった。つまり、肝臓は口腔病態投与に伴う腸内環境の変化を感知し、NAFLD感受性が増加している可能性が示唆された。また腸内細菌叢を解析したところ、いずれの口腔病原体投与群においても、腸炎惹起性細菌群(Bacteroidales, Bacteroides属)や肝癌関連細菌(Peptostreptococcaceae, Erysipelotrichaceae)などのポピュレーションが増大していた。以上のことから、口腔病原体は下部消化器内のDysbiosisを誘発し、 この腸内細菌叢の質的変化がNAFLD病態進展リスクの増加に寄与することが示唆された。
|