研究実績の概要 |
本研究では低酸素環境下でのヒトiPS細胞へのHIFの働きについて検討を加えた。 実験にはヒトiPS細胞(201B7, 253G1)を用い、酸素濃度5%を低酸素条件に設定した。ヒトiPS細胞を5%および20%O2の条件下で14日間培養し、形態学的観察に加え、ALP染色されたコロニー数の測定、未分化マーカー発現のRT-PCR解析を行った。さらに、siRNAにてHIFαの発現をノックダウンしたヒトiPS細胞を5%O2下で7日間し、細胞形態、未分化マーカーmRNAの発現量を比較した。 両ヒトiPS細胞において、 低酸素条件下では20%O2下よりALP染色された未分化状態のコロニー数は有意に多かった。低酸素条件下では20%O2下より未分化マーカー遺伝子の発現量も増加していた。siRNAを導入後、HIF1αをノックダウンした群では、両iPS細胞ともに対照群と同様にiPS細胞のコロニーを形成した。253G1細胞ではHIF2αをノックダウンした群で、コロニーは形成するもののコロニーサイズが減少していた。HIF3αをノックダウンした群では、HIF1αをノックダウンしたときと同様に、対照群と同じようにiPS細胞のコロニーを形成した。 HIF1αをノックダウンした群では、未分化マーカーであるNanogの発現量は対照群と有意差はなかった。HIF2α, HIF3αをノックダウンした群では、対照群と比較して、Nanogの発現量は有意に減少していた。 低酸素環境下では、マウスiPS細胞と比較して細胞生存率が低い解凍後のヒトiPS細胞の増殖を増大させることができた。また、ヒトiPS細胞でもHIFの働きにより未分化状態が維持されていることが明らかにできた。今回の結果から、HIFsのうち特にHIF2α, HIF3αの働きによりiPS細胞の未分化多能性は調節されていると考えられる。
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