研究実績の概要 |
本研究の最終目標は、歯髄または歯根周囲に生じた病変において、慢性炎症を制御し組織再生を誘導する治療法を確立することである。そこでステロイド剤と同等に抗炎症作用を有するステロイドコアクチベーターMacromolecular Translocation Inhibitor Ⅱ (MTI-Ⅱ) (J Biol Chem、2005)に着目し、歯髄・根尖歯周組織の効果的な再生を誘導するための炎症制御因子として炎症抑制・組織誘導の両者を同時に行う再生療法の開発を行っている。 これまでに我々は、MTI-Ⅱが炎症の主たるシグナル伝達経路であるNF-κBシグナルを直接抑制すること(Endocrinology, 2016)、MTI-ⅡおよびMTI-Ⅱ酸性アミノ酸領域を利用したペプチド(MPAID)がTNFα刺激による象牙芽細胞様細胞の石灰化抑制を解除することを明らかにした (J Cell Biochem, 2016)。骨芽細胞においてもMTI-ⅡおよびMPAIDはNF-κBシグナルの活性を抑制することでTNFα刺激による炎症性サイトケインの発現を抑制することを報告してきた。さらにTNFα刺激によるBMP誘導性骨芽細胞分化の抑制をMPAIDが解除するメカニズムについて検討した。 BMP4で分化誘導した骨芽細胞をTNFαで刺激するとALP 活性が抑制されたが、MPAID添加によりその抑制は解除された。また、細胞をBMP4、TNFαおよびMPAIDで刺激したところ、MPAID存在・非存在下に関わらずSmad1/5のリン酸化やSmad1やSmad4の発現に有為な差は認められないことがわかった。以上の結果は、MPAIDによる骨芽細胞分化の抑制の解除は、Smad1/5のリン酸化よりさらに下流に存在する他のシグナル分子を制御している可能性を示唆している。
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