これまで、ローズベンガル等の色素を光感受性物質に用いた光線力学殺菌療法(PACT)では、浮遊菌に対する殺菌効果は高いが、バイオフィルムとなると著しい殺菌力の低下が認められることが分かった。平成29年度は、研究計画を一部変更して光感受性物質にポリフェノール水溶液を用い、光源に近紫外線のLEDを用いる新しいPACTを応用した方法の研究を進めた。ポリフェノールの一種であるカフェイン酸を1 mg/mLで光感受性物質に用いて385 nmのLED照射を行うと、齲蝕原因菌であるStreptococcus mutansのバイオフィルムに対する殺菌効果が発揮され、1分間の処理で3 log、2分間で5 logの生菌数の減少が認められた。LED照射を行わずにカフェイン酸だけで処理した場合、およびカフェイン酸の替わりに純水を使用して385 nmのLED照射を行った場合の生菌数の減少は、1 log未満であったことから殺菌効果はポリフェノールとLED照射の併用効果であることが分かった。また、本殺菌法を訪問・在宅診療での口腔清掃方法として口腔内で使用することも想定して動物実験において安全性の検証を行った。6週齢のラットの背部に全層皮膚欠損創を作製し、カフェイン酸と365 nmのLED照射を併用したPACTで処理を行い、創傷治癒の過程を観察した。その結果、本PACTは創傷治癒に影響を及ぼさなかったことから安全性についても問題ないことが示唆された。 一連の科研費研究を通して、プラーク染色剤を用いたPACTは電解アルカリ水と併用することでS. mutansのバイオフィルムに対して殺菌効果を発揮することが分かった。ただし、その殺菌効果はポリフェノールを用いたPCATよりも低かったため、後者の方が歯科応用に適していることが示唆された。ポリフェノールを用いたPACTは、安全性についても問題がないことが示唆された。
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