本研究の目的は,睡眠時を含めた日常生活中の嚥下事象を自動的に判別できる,非侵襲的で簡便な嚥下回数測定システムを開発することであった.ヒトは食事時以外にも無意識のうちに嚥下を行っており,日常の嚥下頻度を計測することは嚥下機能の低下や誤嚥性肺炎の発症を防ぐうえで大きな意義を持つと思われる. 本研究では,嚥下時は呼吸が停止するという生理現象に着目し,喉頭音と鼻孔音を同時に記録した.その波形を解析することで,会話等の日常環境音の存在下においても嚥下事象を高い確率で判別することが可能となると考えた.さらに,嚥下判別プロトコールをプログラム化することで,日常生活における長時間の嚥下動態を容易に観察することができると考え,研究を行った. 具体的には,会話を含めた日常環境音下で被験者に食事をさせ,その際の喉頭音データと鼻孔音データをICレコーダーで収集し,波形分析を行った.その結果,被験者がフットペダルを踏んで自己申告した嚥下と波形分析による嚥下が一致する解析プロトコールを確立することができた.しかし,プロトコールのプログラム化に難航し,研究期間内に嚥下を自動判別できる解析システムを構築するには至らなかった.しかし,研究遂行中に派生した「頸部のどの部位にマイクを設置すると,最適な嚥下音を採集することができるか」という問題の解明に取り組み,その結果を論文にまとめて発表することができた. 今後は,嚥下事象を自動判別できるプロトコールをプログラム化することで,本システムが嚥下障害のスクリーニング検査や診断に応用できることを目標とする.
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