本研究では、歯科材料に対する細菌表層タンパク質の吸着メカニズムを解明し、バイオフィルム抑制材料の開発の基礎的研究を行った。まず、インプラント材料として用いられるチタンおよびジルコニアに対するタンパク質吸着挙動について水晶発振子マイクロバランス法(QCM)にてモニタリングした。フィブロネクチンおよびアルブミンの吸着量は共にチタンの方が有意に吸着した。これにより材料の種類により吸着量が変わることが明らかとなった。さらに、疑似体液を用い、チタンおよびジルコニアのアパタイトの析出挙動をナノレベルで計測した。結果、チタンの方が早くアパタイトの析出が起こるが、析出量に有意差は見られなかった。インプラント材料として細胞接着因子の一つであるフィブロネクチンの吸着挙動は、タンパク質との静電反発作用に影響を受けることが示唆された。骨形成能の指標であるハイドロキシアパタイト析出特性は、材料に対するカルシウムイオンの吸着特性に大きく影響を受けると考えられた。一方、口腔内で歯質表面は唾液で覆われており、ペリクルが形成されている。歯科材料に対するペリクルの影響が細菌吸着にどのように影響するか検討した。そこで、チタン表面にペリクル成分の一つであるムチンを吸着させた後に、細菌表層タンパク質の一つである黄色ブドウ球菌由来リポタイコ酸(LTA)の吸着挙動をQCM法にて計測した。チタンに対するLTAの吸着量はLTA濃度による影響をほとんどなく、ごく微量であった。しかし、ムチンが吸着したチタンに対するLTAは濃度が高くなると吸着量が大きくなる傾向を示した。 これらの結果により、ペリクル成分の吸着成分を制御することにより、バイオフィルム抑制に繋がることが示唆された。
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