近年、摂食・嚥下障害に関する認識が広まるにつれ、患者層も小児から高齢者まで広がり、病院から施設までと様々な環境で摂食・嚥下訓練を行う機会が増えてきた。摂食・嚥下障害の対応法が患者によって異なるのは当然であり、万能な治療・訓練法がないのが実情である。患者情報をできるだけ収集し、綿密な検査を行い、対応することが重要となってくる。口腔癌、とくに舌癌においては食塊を形成し、咽頭へ送り込む舌を切除することとなる。また舌根部は咽頭後壁と接触し、下咽頭、食道へ食塊を送り込む嚥下圧の発生に関わっている。舌癌術後患者の摂食・嚥下機能評価および残存機能に応じた適切なリハビリテーション法を決定するにあたり、ビデオ嚥下造影検査(VFSS)、ビデオ内視鏡検査(VESS)、嚥下圧測定を用いた総合評価が望ましいとされる。また舌切除術を施行した患者において、残存臓器が切除された欠損部臓器の代償をしている可能性が考えられる。今回、嚥下の咽頭期に舌根と接触し嚥下圧を発生させる咽頭後壁に着目した。現在までに舌切除術を施行した患者における咽頭後壁の経時的動態変化と嚥下機能に関する報告は散在するのみである。当分野において舌癌と診断され、舌半側切除術以上を施行した患者で術前・術後に嚥下機能検査を施行した患者を対象としている。また嚥下圧検査は再現性に乏しく、信頼性が低いことが分かった。H27-30年の4年間で舌半側切除以上の58症例のVFSSを施行した。男性36例、女性22例であった。56例は術後経口摂取は問題なく行えた。2例は胃瘻を造設したが、摂食嚥下訓練を行い現在は経口摂取が可能となっている。今回行ったVFSSで咽頭後壁に代償性変化を認めた症例は確認できなかった。今後、検査結果の分析と臨床的な摂食嚥下機能障害との関係についても検討を行い発表を行う予定である。
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