末梢神経損傷後の知覚障害や疼痛には、交感神経ブロックやレーザー照射など、血流増加を促すような治療法が従来から行われており 、臨床的な治療効果を挙げているが、詳細なメカニズムについては解明されていない。当科の慢性疼痛患者から摘出した神経腫内部の観察では特異的な血管内皮細胞の変形が認められており、また過去の報告からも神経病変と血管には深い関係性があると考えられる。従来行われてきた治療効果は単純な血流増加によるものではなく、血管新生に関与する因子が末梢神経組織に直接作用し、病態に影響を与えている可能性が示唆される。 本研究では血管内皮増殖因子であるVEGFの神経再生への関与を組織学的に明らかにすること、また抗VEGF抗体投与によるVEGF機能阻害による影響を組織学的・行動学的に検討することにより、新たな慢性疼痛治療・末梢神経再生治療法へ展開させる事を目的としている。 本研究では歯槽神経切断モデルマウスを用い、VEGFおよびその受容体は下歯槽神経切断後、切断端に早期に発現すること、また血管内皮細胞のマーカーであるCD31の活性は切断後2、3日にピークをむかえ、神経線維が再接続した7日頃までには消退することがわかった。またVEGF-VEGFRの発現時期にVEGF中和抗体を投与し、VEGF機能を阻害すると、切断部におけるCD31の活性と再生経線維の伸長を阻害することがわかった。これによりVEGF-VEGFRシグナル伝達が神経線維再生の初期段階に深く関与し、その後の神経再生に影響を与えうる可能性が示唆された。本研究結果を末梢神経損傷後の知覚障害や難治性疼痛の新たな治療法へ繋げるためには、行動学的分析などの追加検討が必要である。
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