癌細胞は浸潤・転移の各段階で免疫担当細胞の攻撃により大部分は死滅すると考えられているが、実際には癌細胞は免疫担当細胞の攻撃から逃避している(免疫寛容)。癌細胞が転移・浸潤していくには、癌細胞自身が上皮間葉転換(epitherial-mesenchymal transition: EMT)を来し、また腫瘍周囲に免疫抑制性の微小環境を構築することが不可欠である。近年、血管内の血小板が癌細胞を被覆し、この微小環境においてEMTと免疫寛容を誘導し、浸潤・転移促進に作用することが注目されている。しかし、血管外に漏出した血小板と口腔扁平上皮癌細胞との関係についての報告はない。本研究では、口腔扁平上皮癌の組織内血小板による浸潤・転移能獲得機構を明らかにすることを目的としている。 浸潤様式の異なる口腔扁平上皮癌由来細胞株を用いて血小板と共培養をおこない上皮間葉転換誘導について検討した。共培養した細胞はしなかった細胞と比較し、間葉系マーカーが上昇する傾向があり、上皮間葉移行がおきている可能性が示唆された。次に各細胞にシスプラチンを添加し、細胞増殖アッセイを用いて薬剤感受性を調べた。結果浸潤様式による薬剤感受性に変化が認められなかった。口腔扁平上皮癌一次症例患者より得られた組織標本を免疫染色し、たんぱく質の発現を検討した。血小板の発現を検討するためCD42b、Podoplanin、EMT間葉系マーカーとしてSnail、Vimentinを免疫染色した結果、浸潤性が高い浸潤様式4D型患者より得た標本では腫瘍細胞にSnail、Vimentin、Podoplaninの発現を認め、腫瘍周囲にCD42bの発現を認めた。つまり、浸潤性が高い症例では腫瘍は間葉系の性質を持つ傾向にあり、周囲に血小板凝集を引き起こしている可能性が示唆された。
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