研究課題
本研究の最終目的は、デクスメデトミジン (DEX) の抗炎症作用の機序の解明である。われわれは、DEXがアラキドン酸代謝経路に関与し、抗炎症作用を有する代謝産物の産生を促進することにより、炎症性サイトカインが抑制されるという仮説を立てている。H27年度は、まず細胞レベルでのDEXの抗炎症作用を検証した。マウスマクロファージ由来株細胞のRAW264.7を用い、Lipopolysaccharide (LPS) を作用させることで炎症を惹起し、DEXを投与することで抗炎症作用が認められるかを調べた。予備実験で、IL-6の発現量やDEXによるその発現抑制の結果から、適正な細胞数、LPS、DEXおよび作用時間を決定した。細胞を1×1,000,000/mlに調整し、control群(細胞のみ n=2)、LPSのみ投与する群(LPS: 10ng/ml n=3) 、DEXのみ投与する群 (DEX: 10μM n=3) 、LPS+DEX投与群 (LPS: 10ng/ml、DEX: 10μM n=3)の4群に分けた。6時間後、培養液の上清を回収し、ELISAでIL-6の濃度を測定した。平均値の結果はそれぞれ、553.4 pg/ml、3149.6pg/ml、578.4 pg/ml、2487.8 pg/mlであり、マクロファージにおけるLPSによる炎症性サイトカインIL-6の産生が、DEX10μMの投与により抑制することが確認された。これらの結果から、細胞レベルにおいてDEXの抗炎症作用が示された。
3: やや遅れている
予備実験後、各濃度を設定した後ELISAで測定を行ったが、各群内でのばらつきが大きく、安定までに時間を要した。また、マウスのマクロファージで抗炎症作用が確認できたため、ヒトの細胞でも同様の結果が得られるのか検証していくこととした。しかし、当初使用を予定していたHUVECは、実験必要量まで細胞数を増やすことが困難であることがわかり、代替細胞を決定するまで時間を要した。現在HMEC-1を用いて検討していくこととしており、準備中である。
H28年度は、マウスマクロファージで確認できたDEXの抗炎症作用をヒト血管内皮細胞であるHMEC-1を用いて検証する予定である。また同時に、抗炎症作用を有するとされるepoxyeicosatrienoic acid (EETs) の代謝産物を測定する。さらにRT-PCRを用いて、DEXに対して特異的に作用するCYPのサブタイプを同定し、これらの結果からDEXによる抗炎症作用の機序の解明に引き続き取り組んでいく予定である。
適当な細胞の選択などに時間を要し、当初の研究予定よりも進行が遅れたため次年度使用額が生じた。
年度末にかけて、今後の研究進行について再計画したため、H28年度から順次HMEC-1を使用してデクスメデトミジンの抗炎症作用機序の解明を進めていく予定である。
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European Journal of Pharmacology
巻: 764 ページ: 215-219
doi:10.1016/j.ejphar.2015.06.054