研究課題
多発性骨髄腫(MM)骨病変部では活性化した破骨細胞や酸性環境などがMM細胞に治療抵抗性を賦与する。治療成績の向上のためには骨病変部酸性環境で高い抗腫瘍効果を発揮する治療法の開発が課題として残されている。そこで今回、MM骨病変部酸環境でのRM-Aの抗腫瘍効果の機序を明らかにすることを目的として以下の検討を行い、結果を得た。【方法・結果】1.MM細胞株RPMI8226、INA6、TSPC-1に酸性環境下で抗腫瘍効果を発揮するリベロマイシンA(RM-A)1μMを添加し1日間培養すると、pH7.4では細胞死が誘導されなかったが、pH 6.4ではcaspase3の活性化とともにannexinV陽性の死細胞が著明に誘導された。2.転写因子Sp1は末梢血単核細胞ではほとんど発現していなかったが、MM細胞株や患者MM細胞では無刺激でも高発現していた。Sp1阻害薬 terameprocolの添加により、MM細胞株のIRF4, Pim-2、cMycの発現が著減し細胞死が誘導された。また、MM細胞をpH6.8で培養するとSp1の核移行がPI3K-Akt経路依存性に促進され、標的遺伝子のHDAC1の発現が亢進した。3.酸性環境下においてRM-Aで処理したMM細胞では、Sp1のタンパク量が著減するとともにその転写標的のPim-2、cMycの発現も抑制されていた。4.酸性環境において、RM-Aの添加によりCaspase8が活性化され、それに伴いSp1の発現も低下しており、RM-Aはcaspase8を活性化してアポトーシスを誘導するとともに、Caspase8の活性化を介してSp1の発現を抑制していることも示唆された。MM細胞に高発現しているSp1は酸性環境内のMM細胞の治療抵抗性の獲得に重要な役割を演じていると考えられるが、RM-Aは酸性環境に存在するMM細胞のSp1を標的にできることが示された。
3: やや遅れている
酸性環境下での腫瘍細胞(骨髄腫細胞)のタンパク動態・機能、および酸性環境下で抗腫瘍効果を発揮するリベロマイシンAの作用機序は明らかになったが、他の酸性環境下で効果が高まる可能性のある抗腫瘍薬に関しての研究が進んでいない。
酸性環境下で抗腫瘍効果を示す新規薬剤の効果をin vitroにて検討する。また、in vitroにて効果が高かった薬剤のin vivoでの効果を骨髄腫モデルマウスを用いて検討する。さらに酸性環境下での薬剤耐性機序のさらなる解明とリベロマイシンAの抗腫瘍効果の作用機序もさらに詳しく調べる。
国際学会に参加できなかったため、予定していた旅費分の次年度使用額が生じた。
マウス骨サンプルの解析委託費用として使用する。
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