腺様嚢胞癌の同所移植モデルでは転移を形成する前段階で致死的経過を辿るため、尾静脈を介する人工転移モデルに切り替えて本研究を行った。肺転移巣から細胞を採取してmicro array解析を行い、移植前の細胞と比較した結果、Id-1~4、Twist-1などの転移調節因子に発現の変化は見られなかった。しかしながら、これらの因子をknock downした細胞では転移巣の形成を有意に低下させ、かつ過剰発現させることで転移巣の数を増加させるという結果を得た。これらの現象は免疫組織染色でも確認され、癌細胞の転移能獲得にIdやTwist-1などの転写調節因子が関与していることが示された。原発巣から血管内に流入するextravasationの解析は動物実験では行うことができなかったが、患者検体を用いて原発巣、血管内、転移巣の癌細胞をそれぞれ採取してRNA発現の解析を行った。全てのサンプルを採取できた被検者の数は3名にとどまったが、今回評価した転写調節因子の発現は全段階で一定であり、事前に想定していた癌細胞の形質変化は本研究では認められなかった。しかし一部変動が見られたRNA群も存在しており、今後さらに症例を集積してから再度検討する予定である。原発巣から転移を形成するまでに可逆的な上皮間葉移行が見られる現象(時空間制御機構)は、扁平上皮癌では一部確認されているが腺様嚢胞癌では未知である。一般的には扁平上皮癌より腺癌の方が血行性転移を生じる傾向が強く、背景には未知の分子機構が存在していると思われる。本研究では解明できなかったが、今後は次世代シーケンスの技術を用いて網羅的に解析することを視野に入れている。
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