われわれは下顎歯肉扁平上皮癌同一患者由来の原発巣、リンパ節転移巣、遠隔 (肺)転移巣からそれぞれ初代培養に成功した。これらの細胞はすべて安定した増殖を認め、マウスの背部皮下に移植することで扁平上皮癌を形成する造腫瘍能を有していることを確認した。これら全ての細胞において TP53、PIK3CA の変異が検出されたことに加え、転移巣由来の細胞においてのみ HRAS の活性化変異が認められた。原発腫瘍組織における変異解析では、転移巣由来細胞と同一の変異が TP53、PIK3CA、HRAS に認められた。以上の結果より、原発腫瘍組織中にあって HRAS に変異を有する腫瘍細胞が頸部リンパ節および肺に転移したことが示唆された。つづいて、変異型 HRAS の機能を明らかにするためにHRAS に対する合成 small interfering RNA を転移巣由来細胞に導入したところ、ZEB1、IL6、HBEGF、MMP1 など癌の浸潤転移に関与する遺伝子の発現抑制に伴って著明な細胞増殖および遊走抑制効果を認めた。さらにHRAS、PIK3CA ダブルノックダウンはすべての細胞において相乗的に著明な細胞増殖抑制効果を認めた。これらの結果より、活性化変異が検出された遺伝子あるいはその分子ネットワークが口腔扁平上皮癌の有用な治療標的となることが示唆された。
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